揺らぐサムスン共和国:米中対立に揺れ動くサムスン電子の半導体(3)

国士舘大学経営学部客員教授 石田 賢

 半導体企業の多くは対米投資に傾いている。そうした中、韓国半導体企業は中国生産拠点を維持しつつ、韓国内投資の拡大と米国生産拠点の新設に走っている。

 サムスン電子の半導体事業は、投資計画を見る限り脱中国に舵を切ったものの、中国の先端生産拠点を失う訳にはいかない。米国・半導体法(CHIPS法)の対中規制をクリアしながら、中国生産拠点の維持に向けて、米国政府と交渉を重ねている。具体的には、半導体法の許す範囲内で、中国・西安工場のNANDフラッシュの生産能力をウエハー基準で10%まで拡大できるよう、米国政府と交渉中である。

 中国拠点の対応に追われながらも、サムスン電子は新規投資先として韓国内に半導体クラスターを造成する計画であり、また対米投資では、テキサス州に230億ドル、2046年までに最大1,921億ドルを投ずる計画を立てている。

 しかし半導体事業を拡大するにはタイミングが悪く、足元では世界的な景気低迷の直撃を受け、主力のメモリー半導体が、携帯電話やパソコンなどの需要低迷により、価格下落と輸出減少のダブルパンチを受けている。

 サムスン電子DS(半導体)部門の売上高と営業利益の推移をみると、昨年までの売上高営業利益率は25~30%という高率であったが、今年の第1四半期には、売上高は対前年同期比で金額にして13兆ウォン以上落ち込みマイナス48.9%、営業利益も前年同期比で13兆ウォン減少しマイナス4.5兆ウォンとなった(図表1)。第2四半期もほぼ同様の状況が続くとみられ、今年上半期だけで8兆ウォン前後の赤字を計上する見通しである。

図表1 サムスン電子半導体(DS)部門の実績推移 資料:金融監督院電子公示システム(2023年5月15日)

 半導体事業の不振はサムスン電子全体を揺るがしており、今年第2四半期の暫定実績も前期に続き、全体の売上高60兆ウォン、営業利益6千億ウォン、売上高営業利益率1.0%と低い水準まで落ち込んでいる。

 同業のSKハイニクスも半導体価格下落の直撃を受けている。今年第1四半期だけで3兆4,023億ウォンの営業損失を出し、昨年第4四半期の1兆8,984億ウォンの営業損出と合算すると、わずか半年で5兆ウォン以上の赤字を出したことになる。

 両社とも半導体の在庫は膨れ上がっており、少々の減産では需給回復に追い付かない状況である。他社も減産に動いているものの、これまでのところ価格下落に歯止めがかからず、業績不振は当面避けられない情勢にある。ただし、今年下半期には半導体減産の効果が表れ、回復基調に転ずるとの見通しも出始めている。

 両社が主力とするメモリー系の半導体は、携帯電話・タブレット・パソコンと企業のサーバー用の需要が全体の8割程度を占めており、これらの市場で需要が早期に回復するかどうかが、今後の半導体価格を大きく左右する。

 苦境に立たされている半導体事業であるが、サムスン電子はこの事業部の大幅な赤字にもかかわらず、研究開発投資を6兆5,800億ウォンと過去最大に増やすことで、他社との格差戦略を推し進め、研究開発スタッフの増員を図っている。

 研究開発投資だけでなく、今年第1四半期の設備投資額も10兆7,000億ウォンに達しており、このうち92%は半導体分野に投じられている。この狙いは、顧客が安定し利益も出やすいシステム半導体やファンドリー(委託生産)事業の拡大である。

 ちなみに昨年のシステム半導体事業部門の売り上げは、29兆9,300億ウォンと対前年比で31.3%増加した。ファンドリー事業も2018年の117億ドルの売上高から、昨年の売上高が208億ドルとほぼ倍になっている(図表2)

図表2 サムスン電子・ファンドリー事業部の売上高推移(単位:億ドル)   資料:英国・市場調査会社オムディア(2023年5月)

 台湾市場調査会社トレンドフォースによれば、それでも今年第1四半期のサムスン電子ファンドリー市場占有率は12.4%で、台湾・TSMCの60.1%との差が前年より5ポイント広がり、47.7%ポイント差に広がっている。

 サムスン電子の先行投資は未来への準備と位置付けられる。だが、メモリー事業から非メモリー事業へのシフト、ファンドリー事業の強化などへの戦略転換が、功を奏するかどうかの正念場を迎えている。