揺らぐサムスン共和国:米中対立に揺れ動くサムスン電子の半導体 (2)

国士舘大学経営学部客員教授 石田 賢

 韓国における半導体は、国家事業と言っても過言ではない。韓国政府は2022年7月に「半導体超大国達成戦略」、2023年3月に「国家先端産業育成戦略」を通じて、税額控除による投資拡大、ソウル郊外に300兆ウォン規模の先端システム半導体クラスタ造成、半導体の専門人材確保などを相次いで発表した。

 韓国の総輸出の20%を占めていた半導体が激減している。今年4月の輸出額は63億8,000万ドルで、昨年4月の108億2,000万ドルに対して41.0%減少した。この結果、今年1~4月の半導体輸出の割合は、総輸出額の13.4%にとどまり、1年前より6ポイントも下落した。特に中国向け半導体輸出の落ち込みが激しい(図表1)

図表1 韓国の対中半導体輸出実績(単位:億ドル) 資料 : 産業通商資源部

 韓国の半導体輸出は、今年に入ってメモリー半導体だけでなくシステム半導体も、落ち込んでいる。サムスン電子、SKハイニクスともに、下落する価格の底入れを目指して減産措置を講じているものの、価格に回復の兆しは見られず、厳しい局面が続いている。

 DRAM価格は今年に入ってから下落が続いている。代表的なパソコン用DRAM汎用製品の平均固定取引価格は、2023年5月時点で1.40ドルと4年前(6.74ドル)に比べて、約5分の1の水準にまで落ちている。

 半導体業界に寒波が押し寄せる中、米国は昨年8月、半導体法(CHIPS法)の施行に踏み切ったことから、人工知能(AI)とスーパーコンピュータなどに使われる高性能半導体だけでなくDRAM、NANDフラッシュなどメモリー半導体を製造するために必要な装備・技術の対中ビジネスを事実上禁止した。

 さらに今年2月、米国は補助金支給する条件として、超過利益の共有、10年間中国内の半導体設備の増設を禁止するガードレール条項などを提示した。このためサムスン電子は、現在建設中のテキサス州のファウンドリ工場230億ドル(当初170億ドルと見積もられていたが、資材等の高騰で上昇)に対する5~15%の補助金を申請することもできない。

 両社が中国で生産している半導体は普及型ではあるが、たとえ普及型半導体であっても、それが高度な生産技術を必要とすると見直され、国家の安全保障上、必要不可欠な半導体と見なすかどうかの権限は米国・商務部にある。

  サムスン電子は、陝西省・西安市に最新鋭のNANDフラッシュ工場、江蘇州・蘇州市パッケージング工場などを保有するが、今後の投資計画では、韓国内への投資と米国シフトを鮮明にしている(図表2)

図表2 サムスン電子の地域別半導体投資計画 資料 : 各種報道より作成

 だがSKハイニクスの場合、悩ましい状況に追い込まれている。
 SKハイニクスは2021年10月、米インテルの大連NANDフラッシュ工場とソリッドステートドライブ(SSD)事業を70億ドルで買収したばかりである。しかも2025年3月までに、大連工場の研究開発施設と人材などが引き渡される計画で、それらの費用20億ドルは未払いとなっている。買収手続きは途中の段階にある。

 米国商務省が2023年6月、台湾と韓国企業に中国への先端半導体製造装置などを輸出規制の対象から除外するとの措置を、1年間の猶予期間を認める方針を表明した。最悪の事態はしばらく避けることができたものの、米国次第の不透明な状況は続く。

 一方の中国政府は2023年5月、CHIPS法の対抗措置として、メモリー半導体企業マイクロンの製品に、国家保安に関する危険が発見されたとの理由で、購買禁止の方針を打ち出した。マイクロンは2022年の売上高307億ドルのうち49.8億ドル、割合にして16.2%が中国と香港向けの輸出で、中国市場への依存度が高い。マイクロンが中国で失った市場を、サムスン電子、SKハイニクスが補填することは、米国政府からくぎを刺されている。

 韓国・半導体企業に米国から次々と難題が降りかかってきている。たとえ米国向けの新規投資に補助金が受け取れたとしても、中国市場を失うことの見返りとして十分か、経済安全保障の時代とはいえ、リスク分散には高い代償を伴っており、今後も米国の思惑次第で不測の事態も生じる状況にある。