揺らぐサムスン共和国 :米中対立に揺れ動くサムスン電子の半導体(1)

国士舘大学経営学部客員教授 石田 賢

 米中の半導体を巡る覇権争いは熾烈さを増している。
 2022年8月、米国政府は半導体法といわれるCHIPS法を成立させた(図表1)。同法により、米国内の半導体企業に390億ドル、研究開発(R&D)には132億ドル、計522億ドルの補助金が用意された。

 ただし補助金を受けるためには、10年間、中国国内で最先端半導体の増産や生産能力の増強を行なわないなどの条件が付けられる。中国国内の増設制限により最新の半導体製造装置を導入できなくなることから、韓国企業が保有する既存の中国工場の更新は難しくなる。

図表1 半導体に関する対中国への規制内容 資料 : 各種報道より作成

 条件はそれだけではなく、米国内への半導体投資で補助金を受け取った企業は、申請時に目標とした利益を超えた場合、超過利益の最大75%を米国政府と共有しなければならない。補助金を受けるのが得か、損か、まさに微妙である。

 2023年3月商務部は、CHIPS法の申請手続きと関連して、詳細なガードレール条項を発表した。提示された内容では、補助金を申請する際、半導体工場のウエハー種類別生産能力、稼動率、ウエハーの収率(歩留まり)、生産初年度の販売価格、以後毎年の生産量と販売価格などの資料提供が求められている。

 2023年4月、欧州連合(EU)も半導体法を承認し、経済安全保障の動きを明確に打ち出した。同法は、430億ユーロ規模予算で域内半導体を育てることを骨子とし、現在世界で9%水準にある半導体の生産シェアを、2030年までに20%以上に増やすことを目標としている。

 一方の中国政府は昨年12月、米国が半導体の輸出規制を図ることをWTO(世界貿易機構)に提訴した。中国政府は、苦境に立たされている半導体企業190社に対して、合計17億5,000万ドル以上の補助金を提供した。さらにこの2月、中国政府は、半導体大手・紫光集団傘下の長江存儲科技(YMTC)に対して70億ドルの支援をおこなった。

 しかし、中国内の半導体産業を育成しようにも、米国のCHIPS法は、半導体製造装置から部品・素材に至るまで対中輸出を規制するため、中国政府の対策は、中国国内の企業への支援にとどまる受け身策とならざるを得ず、CHIPS法に対する有効な対抗策は見当たらない(図表2)。 

 だがCHIPS法の施行は中国企業だけではなく、韓国企業への影響も無視できない。韓国の半導体メーカー2社、サムスン電子とSKハイニクスは、中国に主力工場を構えているため、CHIPS法が本格的に施行されると、両社の工場には、最新の半導体製造装置などを導入できなくなる恐れが生じている。

図表2 中国によるCHIPS法への対抗策 資料 : 各種報道より作成

 CHIPS法によるガードレール条項によれば、韓国企業が中国で生産する普及型半導体は最先端ではないことから、ウエハー基準で「10年内5%拡張」を可能とする規定が適用されることになる。

 つまりサムスン電子とSKハイニクスは、中国内工場の生産能力を今後10年間、ウエハー基準で5%以内の範囲であれば拡張可能ということになった。微細加工が進展している今日、この基準をクリアするのは難しくないとみられる。

 とはいえ米国商務部は、2024年8月9日まで普及型半導体に含む技術の種類を決め、以後、少なくとも2年ごとに1回ずつ8年間、普及型半導体の基準を改定する方針である。

 サムスン電子とSKハイニクスの海外生産のうち中国での生産比重が、それぞれ22.4%、42.6%であり、台湾のTSMCの 8.5%と比べてかなり高く、米国主導で基準が改定される度に、不安定な状態に置かれることになる。

 最終的にサムスン電子は、中国での半導体生産を現状維持に努めながらも、米国シフトの投資に舵を切りつつあることから、既存の生産体系と流通ネットワークを急ぎ再構築する必要に迫られている。