《一言半句》地域の”絆”と”心意気”でー祭りの存亡
「ぴーひゃら、ぴーひゃら」「どどん、どんどん」――。弥生3月ごろ、夜の帳(とばり)が下りると田園地帯のどこからともなく、笛や太鼓の音が聞こえ、町内会や校下で組織された青年団の獅子舞の練習が始まる。しばらくして、隣の町内からも「ぴーひゃら」、合奏のように音色が高まり近づく地域の春を告げる「音の風景」である。
ここ十数年、こうした春祭りが次第に薄れている。追い打ちをかけたのは2020年春の新型コロナウイルスの感染の拡大だ。日本中の祭りという祭りがほとんど姿を消した。県内の獅子舞も例外ではなかった。
だが、この春、コロナが落ち着いたことも幸いし、県内各地の祭りや獅子舞復活のうれしい便りが届いた。140年以上の歴史があるという高岡市の長慶寺地区の獅子舞はコロナ前からの休止を含め6年ぶりに復活。青年団OBでつくる獅子舞保存会が地域を活気づけようと小中高生ら幅広い世代をこの日のために取りまとめて大集結した。
4年ぶりに春祭りで獅子舞が行われた町内では、以前は10人ほどの青年団でおよそ90軒の町内を朝から夜遅くまで舞を巡回していたこともある。みな、獅子舞が好きで、伝統を守る一心で頑張っていたものだ。
だが地域催事の担い手であった青年団活動の潮流は大きく変化している。町内会の世話をしていた頃、「団員が減り、このままでは全戸回りは困難、獅子舞を維持出来ない」窮状に応えるため、町内会の全面協力と、青年団OBが笛方の応援を約束したが、直後のコロナ禍で獅子舞が中止になった経験がある。
今回は町外で暮らすOBが参加し、神社と町内のお寺、新築や新家庭を持った家などでお祝いの獅子舞を披露した。年寄りや家族連れも、神社やお寺に足を運び、久しぶりに獅子舞を楽しんでいた。
獅子舞を巡る各町内での対応もさまざまである。休止から消滅へ向かうのではと言われる一方、県外で働く若者からは「是非、獅子舞に参加したい」との申し出や、青年団が町内会に「交通費を助成してほしい」と要望したそうだ。
住んでいる場所は離れても、故郷を思う気持ちは人一倍強い。町へ出て行った若者たちが、この日のために帰ってくる。「太鼓や笛の音が懐かしい」「みんなかっこいい」と大人も子どもも楽しんだという。地域の絆をより強いものにしている。
思い起こす祭りがある。獅子舞ではないが、新湊曳山まつりである。10月1日、何百人もの曳(ひ)き手が「いやさー、いやさー」の掛け声で町を練り歩く。見物する市民や観光客の拍手が湧くと、曳き手の掛け声が地鳴りのように響く。こんな祭りに地元組に加え、東京の若者らが年に一度、まつりに参加するため、大勢、帰省するそうだ。
観光で頑張るも、中心街は空き家が目立つ街となった射水市新湊地区。曳山祭りを舞台にした2016年公開の映画「人生の約束」。東京のIT企業で出会った主人公と新湊出身の友人。亡くなった友人は生前、「町内の曳山をもう一度、復活させ、曳きたい」と夢を話していた。主人公は友人の夢、約束を果たそうと新湊を訪れ、自分を見つめ直していく姿を描く――。曳山の神髄は人々の強い結びつきにあり、小さな地域の「まつり」は人と人の「絆」、「心意気」だと教えてくれる。
(S)