揺らぐサムスン共和国 :半導体市場の寒波に見舞われるサムスン電子
国士舘大学経営学部客員教授 石田 賢
今や国の安全保障を確保するための重要部品に位置付けられているのが半導体である。メモリー系半導体分野では、サムスン電子とSKハイニクスの両社の生産が世界の4分の3を占める。昨年の韓国の輸出総額6,444億ドルのうち、半導体の輸出額は1,280億ドルと19.9%を占めた。
DRAMやNANDフラッシュなどメモリー系半導体は、需要を見越して生産がおこなわれるため、供給が需要見通しを上回ると過剰生産となって在庫が膨らみ、価格下落に直結する。ここ1年数カ月でPC用Dラム価格は、46.1%も下落した(図表1)。膨らむ在庫を減らすには、半導体の生産ラインを一旦止めればいいのだが、再稼働にかかる費用は莫大で、躊躇せざるを得ない。

図表1 PC用Dラム汎用製品の価格推移
資料 : 調査会社DRAMエクスチェンジ(2022年10月)
さらにコロナ特需下に確立された国際分業は、需要が落ち込むと半導体産業の脆さを露呈した。設計は米国と欧州、素材と設備は日本、生産は韓国と台湾、中国は消費先などを基本とした体制である。国際分業の高効率化を追求したあまり、半導体のサプライチェーンの綻びが、欧米の自動車生産、東南アジアのTVやスマートフォンの生産を止めるなど、深刻な事態を招いたのである。
コロナ特需が去った今、世界経済の低迷も加わって半導体輸出が縮小している。半導体の輸出減少は、サムスン電子の稼ぎ頭を揺るがすことはもちろん、韓国経済を直撃する構図となっている。
メモリー系半導体の主な輸出先は中国である。韓国産業通商資源部及び大韓商工会議所によれば、半導体輸出のうち中国市場が占める比率は2000年当時には3.2%に過ぎなかったのが、昨年は約4割の39.7%まで上昇していた。
これに中国国内の工場で生産している半導体を加えると、中国市場への依存度はより大きくなる。現在サムスン電子は、中国・西安にNANDフラッシュ工場を持ち、蘇州にもテスト・パッケージング工場を運営している。西安で生産しているNANDフラッシュのシェアは世界の30%に達している(図表2)。

図表2 サムスン電子の国内外の半導体工場の現状と計画
資料 : 各種報道より作成
米国議会は今年8月、国内の半導体生産・研究開発(R&D)に計520億ドルを投入する「半導体法」を成立させた。これによりサムスン電子とSKハイニックスが投資額の25%税額控除など恩恵を受ける場合、中国で今後10年間、最先端半導体の新設または拡張をしないと約束することが条件となる。ただし中国にある既存の多国籍企業に対しては、この措置は適用されない。
一方、顧客からの受注生産で市場変動に影響を受けにくいファウンドリ(半導体チップの専門生産)事業においてサムスン電子は、台湾のTSMC(台湾積体電路製造股份有限公司)と熾烈な競争を展開している。TSMCの今年第3四半期の売上げは、約2兆8,000億円(前年同期比48%増)を記録し、サムスン電子との差を広げている。TSMCは米国による対中国輸出規制を守るために、中国の先端半導体企業のための委託生産を中断し、一方において米国・アリゾナ州に半導体工場を追加竣工する。今回の投資規模は、第1回目とほぼ同額の120億ドルと見込まれている。
こうした局面でサムスン電子がアップルとファウンドリ事業で手を組もうとしても、両社はスマートフォン市場で競争していることから、サムスン電子がアップルのスマートフォン用の半導体を提供すれば、アップルを支援する構図となる。つまり、TSMCが委託生産に徹しているのに対し、サムスン電子は製品化までをビジネスとしており、これが両社の格差を拡げる主因にもなっている。
TSMCの動きだけでなく、ファウンドリ事業では中国の成長も見逃せない。中国最大のファウンドリ企業SMIC(中芯国際集成電路製造)は、すでに上海と北京、天津、深圳に8インチウエハー工場3カ所と12インチウエハー工場3カ所を稼動させている。さらにSMICは75億ドルを投資して、天津に12インチウエハーを毎月10万枚以上生産する工場を建設する計画を明らかにした。
半導体がサムスン電子の稼ぎ頭として経営を支えてきた。だが、メモリー系半導体を主力としてきたために、大幅な価格下落が避けられない現在、台湾・TSMCとの格差拡大と中国・SMICの追い上げを受け、サムスン電子は、メモリー系半導体の早急な戦略立て直しとともに、投資拡大を続けるファウンドリ事業で活路を見出せるかどうか、岐路に立たされている。