【富山大学×三協立山】富山型資源循環モデル創出へ アルミ再生と押出加工の革新研究を開始

 アルミ産業の一大集積地である富山の地で、富山大学(学長齋藤滋氏)と建材大手の三協立山(高岡市、社長平能正三氏)の産と学が力を合わせ、カーボンニュートラルを支えるアルミの再生材料の開発から社会実装に至る一気通貫の革新研究を行う共同研究がスタートした。

 取り組むテーマは「アルミスクラップの不純物制御」と「超高強度アルミ合金の押出加工・熱処理プロセス」。アルミ合金のスクラップ材の不純物を減らし、自動車や鉄道など幅広い分野で再利用できるアルミ合金の高強度化技術を確立し、3年以内の実用化を目指している。 

 奨学を目的とした寄付講座とは異なり、人材や給与も相互に出し合い、対等な立場で研究を進め研究成果を即、企業内で実用化する「産学密着型」講座を設置、若手人材の育成、アルミニウムの融合研究とともに持続的な生産体制を構築する。

 講座は、アルミニウムの研究拠点である富山大学とマグネシウムの研究拠点熊本大学が連携し、2021年に日本初の軽金属国際研究教育拠点としてそれぞれに設けられた先進軽金属材料国際研究機構内に設置され、今年8月からスタート。三協立山・三協マテリアル社理事の高井俊宏技術開発統括室統括室長(工学博士)が客員教授に就任したほか富山大学の教員6名、学生3名、三協立山の研究者3名を配置する。

 富山大学の研究室の実験では、すでに電気自動車などに使用できるレベルまでの不純物除去に成功している。さらに合金の組成や部材・部品を形作る押し出し加工、熱処理についての研究を進めるため、現在五福キャンパス工学部に置いている講座を来春から、来年3月に高岡キャンパス(高岡市・写真)に新設される研究棟「プラントゼロ」に移す。

新たな研究棟「プラントゼロ」は県産業技術研究開発センターにも隣接する富山大学高岡キャンパス内に新設される(写真富山大学提供)

 プラントゼロには同大学が独自設計した溶解・精錬システム、押出・加工装置のほか評価装置、表面処理装置などを備え、各工程での実験データをすべて一元管理、可視化する。遠隔からもデータにアクセスして解析、即座に論文にすることも可能になるという。また建物内には全国から共同利用・共同研究のため来学した研究者や学生が研究することができる「共同利用研究室」を設置する計画。

アルミ合金の安定供給へ循環モデルを構築

 新幹線や自動車、ホイール、サッシ、缶など多様な用途に使われるアルミは、高強度、耐食性、切削性など合金に求められる性能ごとに純度は異なり、銅やマグネシウム、シリコンなど添加する元素の種類や配合も違う。それらが混合したアルミ合金のスクラップ材は添加元素が不純物になり、リサイクルの妨げとなっている。

 アルミの電解精錬は膨大な電力を消費し、100%を輸入に依存しているが、回収材料からのリサイクルなら電解精錬より97%も少ないエネルギーでアルミを得られる。電気自動車の普及で車両等の軽量化が進み、今後も一層の需要増が見込まれるアルミニウム合金の安定供給には、国内での再生利用の促進が欠かせない。将来的には県とも協力して製品の回収・分別から製品供給までの循環モデルを構築していくという。

 記者会見で齋藤学長(写真・右から3人目)は、リサイクルにより輸入を減らせ、SDGsを踏まえた二酸化炭素(CO2)排出量の削減にもつながるとし「アルミリサイクルの研究開発は米国をはじめ各国がしのぎを削っている。3年以内に成果を上げ、将来は富山ブランドのリサイクルアルミが世界に輸出されることを期待している」と語り、平能三協立山社長(同左3人目)は「大学と当社の強みである製造技術を融合して単独ではできないことに取り組む。学生にも関心を持ってもらって人材を育て、アルミの用途拡大にもつなげて富山の産業の発展に寄与したい」と抱負を述べた。

  柴柳敏哉先進軽金属材料国際研究機構・富山大学先進アルミニウム国際研究センター長は「アルミリサイクルの工程を一気通貫で研究、実証実験できる拠点は全国でもここだけ。将来は海外の影響を受けずに国内のリサイクルだけでアルミ材料をまかない、むしろ外国でも日本のリサイクルアルミを普及できるまでにしたい」と意気込みを語った。