癒しロボット「パロ」が心の支援にポーランドへ 2つの医療施設で活用

 ロシアによる軍事侵攻でウクライナからポーランドへ避難した人たちのためにアザラシ型の癒しロボット「パロ」が贈られ、心の支援に役立てられている。

 「パロ」はさまざまなセンサーやアクチュエーターを備え、人工知能で制御されるアザラシの赤ちゃんをイメージした癒しロボット。産業技術総合研究所(茨城県つくば市)の柴田崇徳上級主任研究員(南砺市出身)が中心となって開発され、電子部品・電子機器開発会社のマイクロジェニックス(砺波市)と共同研究を進めながら2003年に実用化。その後、産総研の技術移転ベンチャー、知能システム(南砺市、社長大川丈男氏)から市販されている。今回は同社からの支援によるパイロット・プロジェクトとして、マゾフシェ県神経精神医学センターとワルシャワ医科大学へ2体ずつ、計4体が寄贈された。

世界30か国以上で7,000体以上が利用

 「パロ」は表面の人工毛皮は銀イオンを含ませた制菌加工などの感染症対策、防汚加工、電磁シールドなどが施され、すべて手作りされている。声をかけたり体をなでたりすると本物の生き物のように飼い主の好みに応じた行動を学習する。うつの改善や元気付けなど、人に楽しみや安らぎなどの精神的な働きかけを行なう心理的、生理的、社会的効果が認められて2002年には「世界一の癒しロボット」としてギネス世界記録にも認定された。

 米国では09年にFDA(米国食品医薬品局)による「バイオフィードバック医療機器(クラス2)」の承認を得て以降、PTSD(心的外傷後ストレス障害)の多い退役軍人省病院や高齢者施設で認知症、がん、脳損傷、統合失調症、パーキンソン病などさまざまな精神疾患の診断に対し、向精神薬のかわりに安全な「非薬物療法」としてパロを使うバイオフィードバック治療が処方されてセラピストたちが処置するようになった。感染症対策がもっとも厳しい小児病棟の集中治療室でも利用されている、ロボットとして唯一の医療機器だ。

 09年から米国やシンガポール、香港、ヨーロッパ、オセアニアなどに輸出を開始。現在の第9世代までに世界30か国以上で7,000体以上が利用され、ウクライナでは2006年に、外務省の文化啓発用品として在ウクライナ日本大使館にパロが配置され、チェルノブイリ原発事故後の小児がんの子供たちなどを対象に心の支援に活用されてきた。日本では中越沖地震や東日本大震災、熊本地震など災害の発生後の被災者の心の支援にも役立てられてきた。

パロとふれ合い笑顔取り戻す子どもたち

パロとふれ合う子どもたち(マゾフシェ県神経精神医学センター提供)

 パロの開発者である柴田氏によると、マゾフシェ県神経精神医学センターでは、爆撃や銃撃によって心の傷を負ったり、家族の離散や避難時のさまざまな苦労でPTSDになるなど困難な状況にある6~14歳の子ども約250人が精神科に通院しており、ポーランド語とウクライナ語という言葉の壁を乗り越え、パロとのふれ合いによって笑顔になって良い状態が続いている、と現地の児童・青年精神科リハビリ部長から報告があったという。

 またワルシャワ医科大学では現在、隔離病棟にいる2人の白血病の男児がパロを大変気に入って喜んでふれ合っているほか、首都ワルシャワ郊外でウクライナ避難者が多く定住しているラシンという町の公共幼稚園をパロと複数回訪問したところ、パロは子どもだけでなく教師にも人気が高かったという。

 今後は避難者のキャンプでの活用、ウクライナから飛行機などで運ばれてくる救急患者の痛みや不安の低減などに向けた医療的活用も計画されている。

 こうした受け入れ評価を踏まえて産総研は両機関と意見交換しながら、パロを活用した環境と対象にする人、その効果について事例のデータベースを構築し、今後のパロの活用場所や方法を将来に活用できる情報として役立てていく。

 特にワルシャワ医科大学は、ウクライナにある17の医科大学のリーダーとして指導することが決まっており、パロをウクライナ国内の医療機関で「医療的活用」するだけでなく「精神科病棟のセラピー治療」、「社会的活用」するための指導にも期待を寄せている。

法人や個人からの寄贈を呼びかける

 ロシアのウクライナ侵攻からおよそ半年が経過し、母国からポーランドに逃れた人は300万人を超え、長引く避難生活によるストレスや不安、不眠など精神的な負担は大きくなっている。 

 柴田氏は「状況が許せば、ウクライナ国内で戦闘状態にある東部や南部から比較的安全な西部に避難している人々や、ポーランド以外にもウクライナの周辺国の人々にもパロを活用してもらえればうれしい。そのためにも寄贈する数を増やしたいが、知能システムだけでは限界がある。ウクライナの避難者の心の支援に寄贈を検討いただける法人や個人から問い合わせいただければありがたい」と呼びかけている。

(株) 知能システム
TEL 03-5753-5345 FAX 0763-62-8600
E-mail: sales@intelligent-system.jp
URL:http://intelligent-system.jp/ (日本語)
http://parorobots.com(英語)