揺らぐサムスン共和国:韓国経済に存在感を増すサムスングループ
国士舘大学経営学部客員教授 石田 賢
サムスングループは韓国を代表する財閥である。図表1に示したように、グループの所属企業数は62社、グループの総資産は483.9兆ウォンで、韓国財閥のトップに位置している。今年、現代を抜いて第2位に上がったSKグループと比較しても、社数は3分の1と少ないが、SKグループの総資産の1.7倍である。

図表1 公示対象企業グループの総資産ランキング(2022年)
資料: 韓国公正取引委員会「2022年度公示対象企業集団」(2022年4月)
サムスングループの総資産の中核を形成しているのは、グループの代表であるだけでなく、今や韓国社会のプライドでもあるサムスン電子にほかならない。最近、サムスン電子の株価が下落傾向を続けたため、昨年初めにサムスン電子の総資産は500兆ウォンを越えていたのが、今年4月の時価総額は387.4兆ウォンと4分の1近くを減らし、その結果、グループ全体の総資産を押し下げている。
それでもサムスングループの総資産483.9兆ウォンのうちサムスン電子1社で387.4兆ウォンとグループ全体の80%を占めていることに変わりはない(2022年5月12日現在)。
サムスン電子、サムスン電気、サムスン物産、サムスン火災、サムスン生命などサムスングループの上場企業15社合計の売上高は、初めて400兆ウォンを突破し、418兆ウォンと韓国国内総生産(GDP)の20%に達している(図表2)。
内訳は、サムスン電子の昨年の売上高で約280兆ウォンに達したのを筆頭に、サムスン電機、サムスンバイオロジクス、サムスンSDS、サムスンSDIなどグループ内の主な企業が過去最大の売上げとなったことが寄与した。
その他にもサムスン生命35兆791億ウォン、サムスン火災24兆4,443億ウォンなど金融系列会社も売上げを伸ばし、グループ内でのポジションを高めている。グループ全体の62社を合わせれば、GDPの30%近くに達するであろう。

図表2 サムスングループ主要15社の売上高及び対GDP比の推移
資料 : ヘラルド経済(2022年3月15日)
2022年5月、新政権が発足した直後、この勢いそのままに新政府にアピールするかのように、サムスングループとして今後5年間の採用・投資計画を発表した。
この計画によると、サムスンは昨年末の従業員数26万7,305人から2026年までの5年間に8万人を新規採用する。投資計画においても、同期間に450兆ウォンの大規模投資計画を発表した。毎年90兆ウォン投資するペースである。
投資分野は、半導体と第二の半導体と位置付けられたバイオの2大先端産業分野とし、情報技術(IT)、人工知能(AI)、5G(第5世代情報通信)など、核心技術において世界をリードするとしている。
450兆ウォンの投資のうち300兆ウォンは半導体向け投資と見込まれ、特にTSMCを追撃したいファウンドリ事業へのテコ入れに力を入れる見通しだ。ファウンドリ事業は、需要が急増しており、これに対応すべくサムスン電子は、平沢(ピョンテク)半導体工場3ラインの一部のファウンドリラインを今年下半期から稼動させ、これとともにアメリカ、テキサス州テーラー市に170億ドルを投資したファウンドリ工場も2024年に稼動させる。
こうしたサムスングループの雇用や投資への積極的な努力にもかかわらず、付きまとうのは李在鎔(イ・ジェヨン)副会長についての司法リスクである。
2021年1月、李副会長は朴槿恵(パク・クネ)前大統領への贈賄罪などで2年6か月の実刑判決を受け、さらに法務部が懲役刑の執行が終了した日から5年間の就業制限を言い渡した。昨年8月に仮釈放になったとはいえ、無報酬・非常勤・未登記役員という就業制限を受けたままであり、トップとして意思決定に参加することはできない。
司法リスクにはまだ裁判中の事案が加わる。2015年、サムスングループ未来戦略室が2015年にサムスン物産と第一毛織合併を推進したとき、検察は、第一毛織株価を高く、サムスン物産株価を低くする偽り情報を流布したと見て、2020年9月に李副会長を起訴した。この不当合併疑惑の裁判のために、李副会長は、ソウル中央地方法院で開かれる公判に毎週1~2回出廷しなければならない。
司法リスクをかかえた李副会長が、サムスングループに山積した懸案を片付けていくには、5月に発足した尹政権から特別赦免が受けられるかどうかであるが、今のところ8月15日の光復節の赦免が有力視されている。特別赦免を受けられれば、李副会長は5年間の就業制限がはずされ、経営に復帰することができる。
故李健煕会長の半導体とスマートフォン事業を成功に導いたトップダウンの経営判断は、今や語り草となっている。3代目李副会長としては、第二の半導体と期待されるバイオ、AI、5Gを成功に導けるかどうか、重大な局面を迎えている。