揺らぐサムスン共和国:インテルのファウンドリ再進出を憂慮するサムスン電子

国士舘大学経営学部客員教授  石田 賢 

 現在、量産型のメモリー系半導体の時代から、オーダーメード型であるAI(人工知能)、自律走行車、5G(5世代移動通信)などシステム半導体への需要が一気に拡大するなか、供給不足による半導体の価格上昇を招いている。

 半導体の世界市場規模の2割がメモリー系で、残り8割を非メモリー系が占めている。システム半導体の中核となるビジネスが、ファウンドリ(半導体委託生産)事業である。そのファウンドリ事業で世界トップのTSMC(台湾積体電路製造)は、今年の設備投資に前年比47%増の440億ドルを予定し勢いがある。

 ファウンドリ事業でサムスン電子は現在、TSMCに水をあけられつつあり、大規模投資に踏み切るか企業買収に乗り出すか、岐路に立たされている。しかもこの領域では中国企業の追撃だけでなく、インテルもファウンドリ市場へ再び参入することを表明しており、今後、激しいシェア争いに巻き込まれるとみられる。

 まず中国企業の動きから概観してみよう。
 中国を代表するファウンドリ企業はSMIC(中芯国際集成電路製造:本社上海市)である。

図表1 ファウンドリ事業の占有率
注:占有率は2021年第4四半期基準
資料:トレンドフォース

 SMICの事業報告書によれば、昨年の売上高が前年比39.3%増の54億4,300万ドルを記録し、当期純利益額も同138%増の17億ドルに達し、売上高純利益率は31.3%と高い。販売先は、中国および香港事業部門への売上げが全体の64.0%、北米地域22.3%、欧州及びアジア地域13.7%となっている(図表1参照)

 米中の緊張関係からSMICも半導体の革新技術を得にくくなっており、海外技術に頼らず自力による開発を進めているものの、台湾・TSMCやサムスン電子の技術レベルと比較すると、数世代遅れているとの評価である。

 とはいえSMICは、中国政府の半導体が戦略物資であるとの判断で支援を受けており、趙海軍・共同最高経営責任者(CEO)は、今年2月に生産能力の大幅増強を発表した。昨年の投資額45億ドルから今年は50億ドルへと過去最大の投資規模を表明した。

 建設中の新工場は、北京市、上海市、広東省・深圳市であり、これらが稼働に入れば、月間半導体生産能力は8インチ半導体基板(ウェハー)基準で、現在の13万個から15万個に増える見通しである。

 SMIC同様、インテルの動きも急である。
 2021年2月に就任したインテルのゲルシンガーCEOは、再びファウンドリ事業に参入するとして、「IDM(垂直統合型)2.0戦略」を発表した。IDMとは、半導体の設計・製造から封止(モールド:半導体を光、熱、湿気、埃や衝撃などから保護すること)・検査工程まで1社で行うことを意味する。

 インテルはファウンドリ事業への本格参入を決定しており、昨年には研究開発投資に過去最大の152億ドル(対前年比12%増)を費やしていて、これはサムスン電子の65億ドルに対して実に2.3倍だ。

 インテルはファウンドリ工場の新設に向けて、米国・アリゾナ州とオハイオ州にそれぞれ200億ドル、欧州で10年間に800億ユーロを投資する計画である。この2月にはイスラエルのファウンドリ企業タワーセミコンダクターを54億ドルで買収した。

 米国政府も半導体事業への支援を打ち出している。今年2月、産業競争力向上及び半導体生産強化のために、米国内の工場建設等に対して、520億ドル規模の連邦資金で支援する「米国競争法案」が米国下院において可決された。同法により米国に本社を置くインテルのみが補助金と税制優遇という追い風を受けるのか、TSMCやサムスン電子も米国内の工場建設であれば、それらの恩恵に浴することができるのか、予断を許さない。

 インテルの戦略は、中長期的には先行するTSMCよりも後塵を拝しているサムスン電子の方に打撃を与えると見られている。

 サムスン電子のファウンドリ事業は、価格面でも憂慮されている。なぜならサムスン電子の4ナノ工程のファウンドリ事業の収率(完成品比率)が20~30%と低いのに対して、TSMCの収率は70%前後と高く、この結果、両社の収益性と価格格差は歴然としているからだ。

図表2 スマートフォン向けAP市場占有率(2021年第4四半期基準)
資料 : カウンターポイントリサーチ

 さらにTSMCは追い風を受けている。アップルは来年下半期発売予定のアイフォン14(仮称)に使う5G RF(Radio Frequency:無線周波数)チップ製造をTSMCに委託することに決定し、契約を締結したと伝えられる。

 また、クアルコムが3ナノAP(アプリケーションプロセッサ:カメラに入るイメージセンサやスマートフォンの頭脳の役割をする半導体)をTSMCに全量任せたという報道もある(図表2参照)

 トップのTSMCとは技術・価格面で差を拡げられ、一方では中国・SMICとインテルの追撃にあっているサムスン電子のファウンドリ事業は、どこに活路を見出せるか、厳しい局面を迎えている。