揺らぐサムスン共和国:新薬開発を本格化するサムスンバイオロジクス

国士舘大学経営学部客員教授 石田 賢

 サムスングループが第2の半導体と期待するバイオ事業に明るさが見え始めている。バイオ事業を主導するのはサムスンバイオロジクス社(以下バイオロジクス)である。同社は2年前からコロナ治療薬に関連した需要拡大で、大きく業績を伸ばしている。

 昨年5月、バイオロジクスは、米国のバイオ医薬ベンチャーのモデルナ(本社マサチューセッツ州・2021年売上高184億ドル)とコロナ治療薬の委託生産(CMO)契約を行い、9月には世界トップの製薬会社ロシュ(本社スイスバーゼル・2021年売上高628億スイスフラン)とのCMO契約を当初の3,553万ドルから2億1,285万ドルに拡大した。

 英国のグラクソ・スミスクライン(GSK 本社ロンドン)とのCMO契約規模も今年2月、5,087億ウォンから6,205億ウォンに拡大。3月にはGSKと2020年に結んだCMO契約を2,323億ウォンから2,708億ウォンに増額し併せて契約期間も1年延長した。

 さらに米国の製薬最大手イーライ・リリー(本社インディアナ州)との間で、1,121億ウォン規模のCMO契約を締結したほか、4月にも米国のバイオ医薬品会社・アラコス(本社カリフォルニア州)とCMO契約するなど、顧客開拓は順調に展開している。

 バイオロジクスの売上高と営業利益の推移をみると(図表1)、昨年の売上高は1兆5,680億ウォン、営業利益は5,373億ウォン、対前年比でそれぞれ34.6%、83.5%の増加となった。特に営業利益は初めて660億ウォンに黒字転換した2017年を起点とすると、昨年の営業利益5,373億ウォンは、わずか4年間で8.1倍増えたことになる。

図表1 サムスンバイオロジクスの実績推移(単位:億ウォン)
資料 : サムスンバイオロジクス(2022年2月)

 売上高営業利益率をみても、2017年当時は14.2%にとどまっていたが、2020年に25.1%、昨年には34.3%に上昇している。業績好調に比例して、従業員数も2019年末の2,470人から昨年末の2年間で約1,500人増えて3,959人となり、そのうち女性従業員は昨年末で1,685人と全体の43%を占めるとともに、女性役員の比率は16%に達している。

 同社は現在、松島(ソンド)に2兆ウォン以上を投資して世界最大規模の第4工場(25.6万リットル)を建設中であり、今年10月には一部稼動を開始し、来年には生産能力が62万リットルに達する。このときにはグローバル全体でCMO生産量の約30%を占めることになる。さらに2024年までに第5、6工場の増設を通じて、38万リットルの追加生産能力が加わり、合計100万リットルの生産体制とする計画である。

 今年2月には、米国・バイオジェンと2012年に設立したジョイントベンチャー(JV)、サムスンバイオエピス(以下バイオエピス)のバイオジェンが保有する株式を23億ドルで買収すると公表。この4月に同社を100%の非上場子会社化した。

 バイオエピスの売上高の推移をみると、バイオ後続品(新薬の約70%の価格)の好調により、2019年以降急成長しており、営業利益も黒字に転換している。昨年の売上高は前年比9.0%増の8,470億ウォンを記録し(図表2)、純利益も同10.1%増の1,520億ウォンに達し、売上高純利益率は17.9%へ飛躍的に伸びている。 

図表2 サムスンバイオエピスの実績推移(単位:億ウォン)
資料:監査報告書連結基準

 バイオエピスを子会社として編入することで、バイオロジクス社の今年の連結決算は、売上高3兆ウォン、営業利益1兆ウォンの企業規模になるとみられる。2012年2月にバイオロジクスが設立されてから、わずか10年の出来事である。サムスンのバイオ事業は、医薬品開発製造受託(CDMO)事業の拡大、バイオエピスで検証されたバイオ後続品の独自開発と開発期間の短縮、新薬開発(例えば遺伝子治療剤など)のための欧米における工場新設による事業拡大など、3つの軸によるグローバル製薬会社を目指すことになる。

 バイオロジクス社の成長が制約されるとすれば、事業の75%以上が海外市場に依存しているため、為替変動の影響をもろに受けることと、CMO事業の特性上、人件費の割合が高いことや巨額の先行投資が減価償却費として経営を圧迫する点である。これらの制約を抱えながらも、今年のバイオロジクスは、グローバル総合バイオ企業として跳躍するための基盤固めを目指す転換期に差し掛かっているといえる。