韓国財閥の対北事業の展望(3)南北経済協力事業のシナリオ
2 電力以外のインフラ整備
電力に次いでインフラ関連で急がれるのは、北朝鮮の港湾施設の整備である。西海に面した北朝鮮最大の貿易港・南浦(ナンポ)などの港湾では、干満差が大きく水深が浅いうえに、大同江(テドンガン)からの土砂が堆積し、浚渫から始めなければならない。このため日本海側の羅津(ナジン)、先峰(ソンボン)、清津(チョンジン)の整備が急がれるが、現状では埠頭面積が狭いうえ老朽化が激しく、日・韓・中・露と物流ネットワークを構築するには大きな障害となっている。
日本海側の港湾で注目されているのは羅津港である。SKグループが「羅津港は相当な経済的価値を持っている」と位置付けており、「中国の北東部地域とロシア極東地域、北朝鮮をつなぐ地域流通のハブ機能として潜在力が大きい」としている。SKグループが2021年8月に東海北部線の鉄道建設事業「江陵(カンヌン)~猪津(チェジン)」の一部を受注したことから、全線の連結工事が完成し北朝鮮内の鉄道も整備されたならば、SKグループが重視する羅津港の役割は飛躍的に増大する。これらの事業が連動することになれば、東アジア全域の経済活動の起爆剤となろう。
港湾施設に欠かせない北朝鮮の荷役能力を韓国産業銀行による推計でみると、2016年末基準4,157万トンにすぎず、韓国11億4,000万トンのわずか3.6%水準である。北朝鮮が保有している船舶トン数も、韓国の4,460万G/T(総トン数)に対して、93万G/Tと2.1%にとどまる。
いずれにしても、北朝鮮の港湾施設も鉄道・道路インフラ同様ほぼゼロベースであり、国土研究院が選定した港湾プロジェクトには、まず海州(ヘジュ)港の近代化として埠頭新設および拡張、南浦(ナムポ)港の近代化として埠頭新設・拡張および荷役装備の設置、元山(ウォンサン)旅客埠頭および国際港建設などが挙げられている
韓国開発研究院(KDI)は、北朝鮮経済動向報告書(2018年5月)を通じて、南北経済協力が再開された場合、北朝鮮の道路、鉄道インフラなどの未整備を勘案すると、港湾投資から手を付けなければならないと指摘している。
3 鉱物資源開発
最優先の電力・エネルギー、次いで港湾・鉄道設備などのインフラが整備されたならば、国際的な価値を持つ北朝鮮の地下資源の開発が注目されている。エネルギー開発が進み物流ネットワークが構築されれば、この事業から北朝鮮は莫大な資金を手にすることになる。
韓国のみならず世界が期待している北朝鮮の地下資源は、マグネサイトと黒鉛などである。マグネサイトは耐火物や医薬品などの原料となり、北朝鮮の埋蔵量が約60億トン、黒鉛の埋蔵量が200万トンに達すると見込まれている。中国、ロシア、北朝鮮など3か国が全世界埋蔵量の64.7%を占有しており、地域的偏在性が大きい資源である。
端川(タンチョン)鉱山1か所だけでもマグネサイトの埋蔵量は約36億トンで、これは世界第2位の規模である。2007年に韓国政府と北朝鮮が共同開発に合意したこともあり、協力の可能性が最も高いプロジェクトである。1980年代、北朝鮮は東欧圏などにマグネサイトを輸出した経験を持つが、今は電力不足と設備の老朽化などで、年間生産量は20万トンにも満たないと推計されている。
韓国はマグネサイトを中国から高い価格で購入しているのが現状であり、北朝鮮のマグネサイトが手に入るようになれば、豊富な埋蔵量をテコに安定した低価格での購入が期待されている。
マグネサイトと同様に北朝鮮の地下資源として期待されているのは、2次電池燃料の素材に使われる黒鉛である。天然黒鉛の埋蔵量は明らかになっていないが、専門家は大量に埋蔵されているとの見方をしている。
マグネサイト、黒鉛の他、北朝鮮に多く賦存する地下資源としては、石炭とレアメタルである。北朝鮮鉱物資源開発フォーラムによれば、北朝鮮に埋蔵されている主な鉱物資源の潜在価値は約3兆9,033億ドルと推定しており、経済制裁が解除されて電力・エネルギー事情が改善されインフラ整備が進展したならば、石炭とレアメタルは外貨獲得源として輸出され、産業振興の起爆剤となることは間違いない。
北朝鮮の石炭は、中国向けに利用している北漢山(プッカンサン)炭鉱が有名であり、主に清津港~寧波経由で大型船舶への積み替え方式で取り引きが行われている。中国向け石炭輸出は一時水害などの影響で中断していたが、2020年3月より再開している。
北朝鮮にはチタン、バナジウム、モリブデン、コバルト、ニッケル、タングステン、マンガン、リチウムなど、産業的価値の高い希有金属資源が豊富な鉱床もある。これらは半導体や電子素材など未来産業に欠かせない。
商業化は困難だが、北朝鮮に多く埋蔵している地下資源として鉄鉱石が挙げられる。その代表格が茂山(ムサン)鉄鉱山である。ここはアジア最大の露天掘りが可能な鉱山であり、しかも埋蔵量が70億トンと世界第9位、可採埋蔵量13億トンと豊富である。
しかし北朝鮮の鉄鉱石は磁鉄鉱で品位が低く、掘り出した鉱石を細かく砕き選鉱工程を経て鉄鉱石としての純度を66%程度まで高めた後、製鉄所に送らなければならないため、採掘工程と選鉱工程に莫大な電力を必要とする。ここにも電力開発がインフラ整備の中で最優先となる所以がある。(了)