韓国財閥の対北事業の展望(3)南北経済協力事業のシナリオ

国士舘大学経営学部客員教授 石田賢

経済協力が進展する前提

 4大財閥の動きを総括すると、最近の韓国政府は対北朝鮮に対する制裁において、米国をはじめとする国際社会と歩調を合わせていることから、金剛山(クムガンサン)観光や開城(ケソン)工業団地などの再開を独自に決められない。両プロジェクトの収入が、北朝鮮の核開発や軍事資金に充てられているとの疑いから、韓国財閥も、国際社会の対北朝鮮制裁を無視して動くには限界がある。

 米国が2021年1月、バイデン政権に交代したことで、朝鮮半島にも変化が現れるのではないかと期待する向きもあったが、民主党政権は北朝鮮の核開発のみならず人権問題に関しても強硬な姿勢を見せており、南北経済協力の短期的な進展については、悲観論が先行している。

 民間レベルで南北経済協力が本格的に始動するのは、国際機関から調達される資金が北朝鮮のインフラ整備(電力・エネルギー、鉄道、港湾、道路、空港など)に投入されてから、5~10年後というのが一般的なパターンである。

 ここでは、北朝鮮の非核化が段階的に進んでいることが確認された時点で、韓国政府・財閥がこれまでの実績・蓄積を生かした事業が進展すると考え、次に非核化が完全に確認された時点で、国際機関によるインフラ整備が進展すると想定した。

 北朝鮮との経済協力プロジェクトが動き出すには、非核化の他にもいくつかの前提条件を設定しなければならない。南北経済協力が本格的に動き出すための前提として以下の基本条件が考えられる。

1 北朝鮮の非核化が確実に実行され、国際通貨基金(IMF)、世界銀行(WB)、アジア開発銀行(ADB)などの国際金融機関に北朝鮮が加入すること。
2 開発資金を投入するには、韓国銀行あるいは国際機関による北朝鮮の信頼できる統計データが整備されること。
3 米国・バイデン政権は人権問題を重視していることから、北朝鮮の拘禁・拷問・強制労働などの人権侵害問題に改善が見られることと併せて、北朝鮮の経済支援には日本からの戦後賠償資金が欠かせないため、日本の拉致問題、韓国の離散家族問題にも何らかの進展がみられること。
4 北朝鮮への外国資本等に係る法整備が行われることも必須であり、北朝鮮の株式会社設立・運営、株式・社債発行など証券発行市場関連制度およびシステム構築の支援による電子証券制度など先進預託決済システムなどが構築されること。

北朝鮮の段階的な非核化により動く4大財閥のプロジェクト

 韓国財閥が主体的に動かす可能性のある事業としては、北朝鮮の外貨獲得源になるプロジェクトがある。現代グループの現代峨山が事業推進母体となっている開城工業団地と南北融和の象徴である金剛山および白頭山(ペクトゥサン)観光など、中断している既存事業の再開が最優先事業となる。

 現代グループは2018年5月以降、南北経済協力タスクフォース(TF)チームを編成して毎週会議を開き、事業再開に向けた検討を重ねている。1998年11月に始まった金剛山観光は、2014年以降ストップしているものの実績がある。

 また現代グループが最有力と見られていた北朝鮮と未連結の鉄道区間「江陵(カンヌン)~猪津(チェジン)」の建設工事(110.9キロ)は、2021年8月に一部区間(22.4キロ)をSKエコプラントが受注したことから、残り約8割の審議中工区の展開が注目される。

 これらが完成し北朝鮮内の鉄道区間も整備されたならば、釜山から北朝鮮、中国、ロシアを経てイギリス・ロンドンまで鉄道で繋がることになり、北東アジア圏の経済効果は計り知れない。鉄道以外にも現代グループは、電力、通信、通川(トンチョン)飛行場、臨津江(イムジンガン)ダム、金剛山水資源、名勝地観光ー白頭山観光など、北朝鮮の7つの社会間接資本(SOC)に対して、2030年までの独占事業権を保有している。