韓国財閥の対北事業の展望(2)4大財閥の南北協力事業の動向
国士舘大学経営学部客員教授 石田 賢
ここでは2018年9月に文大統領に同行した韓国4大財閥(現代、サムスン、LG、SK)が、その後南北共同事業にどのように関わってきたか、さらに今後の可能性のある事業などを明らかにする。ここ数年を俯瞰すると、4大財閥が、韓国政府と北朝鮮に翻弄され続けてきた姿が浮かび上がる。
2020年11月、ソウル・ロッテホテルで統一部主催の南北経済協力に係る懇談会が開かれ、現代、サムスン、LG、SKなど4大財閥と大韓商工会議所・韓国経営者総協会、現代峨山、開城工業団地企業協会など、南北経済協力に関わった企業関係者たちが参加した。3年前に北朝鮮を訪問したメンバーの再会の場となった。
この席上、統一部は集まった企業関係者らに、南北経済協力のリスク要因を克服しながら、経済協力事業の発掘・推進などを着実に準備するよう改めて要望したにとどまり、具体的な施策に触れることはなかった。
現代グループの動き‐現代峨山
現代グループの創業者である故鄭周永(チョン・ジュヨン)名誉会長は、北朝鮮・江原道の出身者であることはよく知られている。このため他の韓国財閥と比較して、北朝鮮に対する思い入れは格別のものとなっている(図表1)。

図表1 現代グループの対北朝鮮の主な事業活動
資料 : 各種報道より作成
鄭周永名誉会長は、1989年1月に北朝鮮を訪問したのを皮切りに度々北朝鮮を訪問し、98年10月の3度目の訪問で当時の金正日総書記に直談判し、金剛山(クムガンサン)観光開発議定書の締結に漕ぎつけた。現代グループが北朝鮮事業を本格化するのは、99年2月に現代峨山(アサン)株式会社を設立してからである。現代峨山は現代グループの中で北朝鮮事業を専門とする会社である(図表2)。

図表2 現代峨山の主要事業
資料 : 金融監督院電子公示システム(2021年11月15日)より作成
現代峨山は、北朝鮮との主力事業である金剛山観光地区に50年事業権と土地開発権などに合計9,229億ウォンを投じ、また開城(ケソン)工業団地には事業権やインフラ整備などにこれまで約6,000億ウォンを投資してきた。金剛山観光に関連する損失額は、2008年に中断されて以来今日まで、累計1兆6,000億ウォンに達すると推測されている。
開城工業団地も事態は深刻である。20年6月16日、北朝鮮による南北連絡事務所の爆破という事態に直面し、翌日、現代グループは緊急対策会議を開催したものの、現代峨山として打つ手を見出せず、金剛山観光再開TFT(タスクフォースチーム)も、成す術はなく見守るしかなかったと報じられた。金剛山観光と開城工業団地に係る損失額だけでも、2つ合わせると軽く2兆ウォンを超す。
現代峨山は全社売上高では1,000億ウォンを越えるものの、20年まで赤字の連続であった。20年の売上高1,328億ウォンに対して84億ウォンの赤字、売上高営業損失率が6.3%であった。ただし建設業に軸足を移した21年1-9月になると黒字に転換し、売上高営業利益率は2.7%になった(図表3)。

図表3 現代峨山の売上高、純利益の推移(単位:100万ウォン)
資料 : 金融監督院電子公示システム(2021年11月15日)より作成
黒字に転換した理由は、赤字の観光事業の縮小である。現代峨山の現在の事業内容は21年1-9月の売上高ベースで、建設工事が全体の89.4%を占め、北朝鮮などを含む観光事業は10.6%にとどまっている(図表4)。ここ数年、年間売上高は1,000億ウォン台を超えたレベルで推移しているが、北朝鮮の観光事業は縮小の一途を辿り、建設事業が本流となって経営を支えているのが実態である。

図表4 現代峨山の事業部門別売上額
資料 : 金融監督院電子公示システム(2021年11月15日)より作成
南北協力事業の象徴ともいえる金剛山観光と開城工業団地の再開が頓挫している中で注目されるのは、北朝鮮との未連結の鉄道区間「江陵(カンヌン)~猪津(チェジン)」の単線建設工事である(図表5)。21年4月に入札参加資格事前審査(PQ)が締め切られた。
現在審査されている事業区間は江陵~猪津路線で、全長は110.9キロである。総工事期間7年、工事費は約2兆3,490億ウォンと見込まれている。現代グループの受注が最有力と見られていたが、21年8月、SKエコプラントが110.9キロのうち第4工区の建設工事(総延長22.4kキロ)を受注した。すでに江陵~釜山(プサン)区間は連結されており、江陵~猪津区間の連結工事が動き始めたことから、釜山から北朝鮮、中国、ロシアを経てイギリス・ロンドンまで鉄道で繋がることが現実味を帯び始めている。

図表5 東海北部線の鉄道建設
資料 : 東亜日報(2020.8.13)などより作成