揺らぐサムスン共和国:中国事業革新チームに再起を託すサムスン電子
国士舘大学経営学部客員教授 石田 賢
昨年のサムスン電子の連結決算によると、売上高は前年比18.1%増の279兆6,048億ウォンと過去最高、営業利益も同43.5%増の51兆6,339億ウォンを記録した。この業績をもたらしたのは、半導体の企業向けサーバー用メモリーなどの需要が旺盛であったことと折り畳み式のスマートフォンが、東南アジア市場で販売好調であったことなどが寄与したものである。
だが、スマートフォン市場では安穏としていられない。市場調査会社カウンターポイントリサーチによれば、サムスン電子は昨年末に全世界スマートフォン市場で18.9%の占有率で1位を死守したものの、2位アップルの17.2%との格差は1.7ポイントに狭まり、シャオミ(13.6%)、OPPO(11.4%)、VIVO(9.6%)などの追撃を受けている(図表 1)。

図表1 世界スマートフォン市場の企業別シェア(2021年実績)
資料:カウンターポイントリサーチ(2022年1月20日)
この危機感を象徴する出来事が今、中国で起こっている。それはサムスン電子の中国スマートフォン市場における凋落である。図表2に示したように、2014年当時、サムスン電子の中国におけるスマートフォンの占有率は13.8%であったが、昨年9月末現在、0.4%と見る影もない。

図表2 中国スマートフォン市場におけるサムスン電子のシェア推移(%、年末基準) 資料:ストラテジー・アナリティックス
こうした逆境を打開すべく昨年末、サムスン電子は中国市場におけるスマートフォン事業とTVなど消費者家電市場の立て直しを目指して、スマートフォンとTV、生活家電の2部門を総括する韓宗熙(ハン・ジョンヒ)副会長直属の「中国事業革新チーム」を新設した。
こうした緊急策を打ち出した背景には、昨年9月にアップルが販売したアイフォン13の好調が際立ち、この結果、グローバルスマートフォン市場でアップルが昨年第4四半期に23%のシェアを記録し、再びサムスン電子を抜いて6年振りの第1位に返り咲いたことが挙げられる。
しかもアップルの快進撃は全世界のみならず、サムスン電子が大苦戦している中国市場において、これまでの戦略とは真逆といえる低価格のアイフォンを販売した戦略が功を奏し、昨年第4四半期に中国市場でシェア1位を獲得した。
サムスン電子が中国スマートフォン市場においてシェアゼロ%台で大苦戦しているのに対して、アップルは20%台と快走しており、両社は好対照を成している。しかもアップルの場合、世界スマートフォン市場の4分の1を占める中国市場で、ファーウェイが米国の規制により脱落する中、OPPO、VIVO、シャオミなど他の中国企業の躍進が際立つ中で存在感を強めている。
サムスン電子の差別化戦略を象徴していた折り畳み式スマートフォンも、最近ではファーウェイ、OPPOなど中国メーカー5社が折り畳み式スマートフォンをサムスンより先行して発売しており、サムスン電子が目指していた独走態勢は、早くも足元から崩れ始めている。
中国勢はすでにスマートフォンの技術開発力をつけてきており、決して侮れない水準に達している。サムスン電子が中国のスマートフォン市場で再浮上を図るために中国事業革新チームを新設したものの、競争力を回復するための道筋は見えない。
サムスン電子は、中国市場においてスマートフォンだけが不振を続けているのではなく、TV市場においても同じような状況に追い込まれていることから、事態は深刻である。中国事業革新チームに課せられた特命は、既存事業の立て直しにとどまらず、新規事業の発掘まで広範囲にわたり、成果が表れるまでには相当な時間を覚悟しなければならないだろう。