《一言半句》パンデミック下の妄想―プーチンはなぜ戦争の道を選んだか
2022年2月24日、ロシアは兄弟国と呼ぶ隣国ウクライナに軍事侵攻した。プーチン大統領が始めた蛮行に世界中の国々が驚愕した。平和維持(戦争防止)と社会の発展を目的とする国際連合の常任理事国であるなら、いかなる理屈を並べ立てようとも、許されるものではない。
ロシアはソ連崩壊後、形は三権分立だが、プーチン大統領が20年以上権力を握る専制、独裁国家だ。閣議で閣僚たちに「君はどう思う」と指差し、聞くポーズを見せるが、みな「賛成」と答える。恐怖政治下のセレモニーだ。
侵攻直前の2月21日、プーチン大統領とラブロフ外相が〝会談〟を演じた。米ロ首脳会談を模索する中、長大なテーブルを挟み、両氏が話し合う場面を公開。世界中のメディアに流れた。実に滑稽(こっけい)な光景に映った。
「我々が懸念する重要な問題について(米欧と)合意に達する可能性があるのか。それとも終わりのない交渉に我々を引き込もうとしているのか」(プーチン)、「外務省のトップとして常に(合意の)チャンスがあると言わざるを得ない」(ラブロフ)―こんなやりとりが流れ、米国との話し合い解決を望むロシアの姿勢を演技した。それ以上に驚いたことは向き合う2人の距離が5、6メートルもあり、私にはプーチン氏が側近も含め他者への猜疑心と新型コロナ感染症に怯えているように映った。
「プーチン大統領はテーブルを前にして落ち着きがない」「指を動かすしぐさは苛立っている証拠」「理性的な判断が出来なくなっているようだ」―長年、プーチン大統領と交渉に臨んだ外交関係者らはそのしぐさに異様な精神状態を垣間見る。プーチン氏はコロナ下の2年間、他国のリーダーのように国民に向かって、「共に乗り切ろう」とメッセージを発信することもなく、ほとんど姿を見せなかったように思う。プーチン大統領は何を黙考していたのだろう。
「ウクライナ国民を国外に追い出す。ポーランドなど近隣諸国は何百万人の避難民を受け入れる。当然、ヨーロッパ諸国の社会経済は混乱する。社会不安に乗じて、同じ手法を使い、東欧諸国へ侵攻する」。独裁者にありがちな孤立感を深め、米欧を見下す旧ソ連体制のような「強いロシア」を妄想でもしていたのか。
第2次世界大戦はナチスドイツを率いるヒトラーがポーランドに侵攻して始まった。ドイツ人の保護が理由の一つとされるが、今のプーチン大統領の妄想と狂気が重なる。イタリアのムッソリーニや日本の軍部とも似ている。
ロシアも参戦した100年以上前の第1次世界大戦は、世界中がスペイン風邪の猛威に晒されたため、やむなく終戦になった。直後の1920年に五輪・アントワープ(ベルギー)大会が開かれ、米英仏など戦勝国は国際連盟を発足させた。1929年の世界恐慌を経て、今度はドイツや日本が侵略国として戦争の道を歩んだ。
コロナ下のパンデミックの時代、どこか時代風景が重なる。戦争の道を選んだプーチン大統領は、コロナが産んだゴジラのような〝怪獣〟にしか見えない。
(S)