揺らぐサムスン共和国:ファーウェイ空白にも、精彩を欠くサムスン電子

国士舘大学経営学部客員教授 石田 賢 

 2021年9月、中国の通信機器大手ファーウェイ(本社:中国深圳市)の取締役副会長兼輪番会長である徐直軍(エリック・シュー)氏は、米国によるサプライチェーンへの制裁が長引く現在、今年のスマートフォンの売り上げが300~400億ドル(35.5~47.4兆ウォン)減少するとの見通しを示した。米国政府が昨年9月から輸出規制を強化したため、ファーウェイは、半導体などの調達が制限され、スマートフォンの生産に重大な損害を受けた。

 具体的には2021年1~6月上半期のファーウェイの売上高は、前年同期比29.4%減の約58兆3,480億ウォンにとどまった。スマートフォン事業の損失を5G(5世代移動通信システム)関連分野で補えなかったことも明らかにした。

 バイデン政権になっても、ファーウェイの一部サプライヤーに対し、輸出許可の条件を厳格化しており、また5Gシステム関連や5G機器への部品(半導体、アンテナ、バッテリーなど)輸出を禁止するなど、制裁の手を緩める兆しはない。

 ファーウェイの不在は、同業他社にとってスマートフォンの売り上げを伸ばしシェアを拡大するチャンスである。だが韓国内ではサムスン電子の折り畳み型スマートフォンなど好調をみせているものの、全体としてチャンスが追い風となっていない。

 2021年第3四半期のサムスン電子の実績は過去最大を記録したものの、スマートフォンを担当するIM部門の売り上げが28兆4,200億ウォン、営業利益が3兆3,600億ウォンと前期比では改善が見られたものの、これは昨年同期より売り上げが2兆700億ウォン(7%減)、営業利益が1兆900億ウォン(24.7%減)といずれも減少している。スマートフォンだけをみると、サムスン電子の今年第3四半期の出荷台数は、8,040万台から6,900万台と14.2%減少し、占有率が前年同期比で20.8%と2.7ポイント下落している。

 厳しい現実を象徴するのが、スマートフォンの最大市場である中国において、低迷を極めていることである。かつて中国市場で20%近いシェアを誇りトップを走っていたサムスン電子に今はその面影はなく、2021年第1四半期にはVivo(本社:中国広東省東莞市)、OPPO(本社:広東省東莞市)、シャオミ(本社:中国北京市)の3社が上位を独占し、サムスン電子のシェアは0.6%と1%にも満たない(図 1)。

図 1 中国スマートフォン市場占有率の推移
資料 : ストラテジー・アナリティックス(SA)

 中国に次いで巨大市場であるインドの今年第3四半期のシェアをみると、中国企業の攻勢が目立ち、トップの座をシャオミ(24%)に明け渡し、サムスン電子は2位(19%)に転落しているだけではなく、足元には2ポイント差でVivo、Realmee(OPPOの独立ブランド)、OPPOなどが迫っている。

 サムスン電子は北米市場ではアップルを巻き返して1位に返り咲いたものの、中国やインド市場の劣勢にとどまらず、欧州市場においても中国企業が地殻変動を起こしている。

 市場調査会社カウンターポイントリサーチによれば、サムスン電子は今年第3四半期の欧州スマートフォン市場で、前年同期比の販売量が16%減少、占有率が30.4%と5.4ポイントも下落した。シャオミがアップルを抜いてシェア2位の23.6%と躍進し、アップルも3位とはいえシェアを4.5ポイント伸ばし22.1%を記録した。

 市場調査会社ストラテジーアナリティックス(SA)によれば、注目されるグローバル5Gスマートフォン出荷台数をみると、今年第3四半期は1億5,650万台、前年同期比121%増加した。この市場ではアップルが占有率25.4%で1位を占め、2位シャオミ(15.6%)、3位サムスン電子(14.7%)、4位OPPO(14.4%)、5位Vivo(11.1%)接戦となっている。

 サムスン電子の5Gスマートフォン市場における苦戦は、他の価格帯にまで広まる可能性が大きい。その理由は、市場が大きい中級価格(200~399ドル) 5Gスマートフォン市場でもサムスン電子は、今年第2四半期グローバル占有率が8%にすぎず、Vivo(30%)とOPPO(23%)、シャオミ(16%)に続き4位にとどまっているためである。

 なおIT専門の調査会社IDCは、5Gスマートフォン市場規模が2020年1,614億ドル、今年3,618億ドル、2025年には4,547億ドルに拡大するとみている。サムスン電子にとっての危機はまだ続く。

 グローバル市場調査会社カウンターポイントリサーチによれば、アップルは今年第2四半期の400ドル以上のグローバル プレミアム スマートフォン市場占有率が57%を記録し、昨年同間より9ポイント上昇した(図2)。

図 2 プレミアムスマートフォン(400ドル以上/台)の企業別占有率(%)
資料:カウンターポイントリサーチ(2021.9.19)

 プレミアム スマートフォン市場ではアップルが圧倒し、中級品においてもシャオミやOPPOなどの中国企業がサムスン電子の足元を脅かしている。このままではサムスン電子のスマートフォンは、生き残りが難しく、じり貧に追い込まれる可能性が大きい。