【新幹線の経済・社会効果】観光関連で石川の伸び顕著 富山では首都圏との往来が高水準 UIターン促進の効果も
1973年の整備計画決定から約50年を経て、2015年3月に金沢開業した北陸新幹線は2024年春には福井・敦賀までの延伸が予定され、2045年に大阪までの延伸、完成が想定されている。ようやく福井での開業を迎えることになるが、その間に社会・経済構造も大きく変化し北陸地域が抱える課題も多様化した。
日本政策投資銀行北陸支店は、これから新幹線が開業する地域とすでに開業済みの地域をあわせ、まちづくりや沿線での取り組みなどの定性的な観点も含め、2010年以降の北陸三県の経済や旅客流動状況などについて考察、「北陸新幹線と北陸の経済・社会シリーズ」としてレポート「新幹線の経済・社会効果~2010年以降の3県経済のふり返りから~」を発刊した。概略を紹介する。
まず北陸新幹線利用者数(上越妙高・糸魚川間の断面輸送量)は、開業初年度からコロナ禍に見舞われる前の2019年度までは堅調に推移し、来訪者の増加により石川県では宿泊者数が大幅に増加。新規ホテルの開業が相次いだこともあって延べ宿泊者数は高水準を維持した。富山県の宿泊者数は顕著な増加は見られないものの、客室稼働率は新幹線開業前に比べやや上昇した。
経済面では新幹線が開業していない福井県も含め3県とも製造業の実質県内総生産は伸びている一方、宿泊飲食や小売りなど観光関連産業では石川県が緩やかな増加。富山県は目立った伸びがなく、石川県では宿泊者数増加を含めて個別の観光地などで地域活性化に効果があったとみられる。
総人口は3県ともに減少傾向が続いている。社会増減の累計を見ると、福井県は減少が続いているが、富山県と石川県は2019年頃にかけて持ち直しており、新幹線開業による利便性の向上や自治体がUターン・Iターン促進活動に力を入れたことが功を奏した可能性がある。
だが両県とも19年以降は減少傾向が戻り、早期に新幹線が開業した新潟県と長野県では近年社会減が続いていることも考えあわせると、人口流出抑制に向けては継続的な取り組みが必要といえる。
地価は富山県と福井県は横ばいだが、石川県はホテル開業が相次いだことによる商業地の地価上昇が住宅地の地価にも波及している。
旅客往来動向を見ると、石川県では高水準の往来が続き新幹線開業効果を維持した成功例といえる。富山県では開業直後の15年、16年度に増加した旅客往来はその後減少し19年度には開業前の14年度並みにとどまったが、首都圏との往来は開業後に増加したまま高水準を維持している。
中京圏との往来も健闘が続く一方で、直通特急の乗り入れがなくなった関西圏との往来は18、19年度に減少。長野、群馬との往来も16年度以後は伸びず、さらに車両基地水没による影響で19年度は大幅に減少した。24年に開業する福井県も含めた北陸3県全体と長野、北関東の交流が拡大すれば地域活性化につながると期待される。
同行は今後複数回に分けて、改めて新幹線開業の観点からレポートを発刊する。
出典:日本政策投資銀行北陸支店「新幹線の経済・社会効果~2010年以降の3県経済のふり返りから〜」