【新刊】「北電工の明日をつくろう」津田信治著
本書は、1943年創業で民生用の抵抗器やセンサ、モジュール製品などの電子部品メーカー、北陸電気工業の会長を2021年6月に退任した津田信治氏が、入社から退任までの半世紀を振り返り、次代を担う社員に伝えたい思いを折々の出来事とともにまとめた一書。
家庭電化ブームに乗って成長を謳歌してきた同社は、バブル崩壊後の1990年代後半から2000年代前半に多額の赤字を抱え、会社存続の危機に立たされた。社長の野村正也氏とともに経営再建に向けた選択と集中による抜本改革を断行、赤字部門の整理と膨れ上がった返済資金の調達を並行して進めるスクラップ&ビルドに取り組み、経営再建を軌道に乗せた。その後トップとして積極的な海外進出や新製品開発を牽引し再生を図ったプロセスと当時の苦悩を振り返る。
本書は、海外・国内を問わず関連会社削減などの「スクラップ」の辛苦、中国進出や同社復活の足がかりとなった三軸加速度センサの開発など「ビルド」の事例、師と仰ぐ人たちの紹介の他、これまでに受けたインタビュー記事や社内報への寄稿などで構成される。
小誌「実業之富山」(2007年6月号)のインタビューでは、人事管理において「社員を競争によってふるい落とすのではなく、助け合い、教え合い、励まし合いながらすくい上げることで挑戦の機会を増やし、やる気を引き出すこと」が重要だと語っている。
津田氏は「命がけの再建」をやり遂げた半生を回顧するとともに、新しい北電工の明日をつくろうと社員に語りかける。退任後の津田氏にとって関係者への感謝の挨拶まわりが「残された最後の後始末」と言えようか。国内は年内にも終えるが、再び感染拡大の様相にある海外行きに今、気を揉んでいる。