《一言半句》若者よ、帰りなんいざ故郷へ―富山の人口100万人割れは目前
新田八朗氏が富山県知事に就任し、2年目に入った。様々な政策課題に意欲的ではあるが、最も厄介なテーマは少子化と人口問題でなかろうか。
富山県の人口は1995年の112万5,612人をピークに減少を続けている。2020年の国勢調査では103万5,612人。100万人を割るのも時間の問題だ。人口増への政策の一つ、都会からの移住者の促進をもっと図れないものか、と案じた時、思い浮かんだのが「帰りなんいざ―」のフレーズだった。
「帰りなんいざ、田園将(まさ)にあれなんとす。胡(なん)ぞ帰らざる」
中国の陶淵明(とうえんめい)が詠んだ「帰去来辞」の冒頭である。中央政府の官の仕事に明け暮れ、心身とも疲れ果てた。生活のために自分の心を犠牲にしてきたが、くよくよと悲しむ場合ではない。宮仕えを辞め、これからは田園が広がる故郷で、未来に向かって生きよう。田園で暮らす決意と清々しい喜びを描いている。
この詩文を紹介したのは、コロナ禍で疲れ果て、苦しみ、傷つき、心が病み、将来を案じる大勢の人々のことを考えるからである。一極集中の東京で暮らす人々は、元をたどれば、地方出身者が大部分ではないか。東京は刺激的ではあるが、新幹線に飛び乗れば、いつでも地方と行き来できる。コロナを機に雑踏の中から、田園や海、山々がそびえる地方へ、富山へ、そろそろ田舎へ帰ったらどうか、と呼び掛けたい。
GDPの大部分を東京の企業が稼ぎ、日本を支えている。一方で生活困窮者が多いのも東京である。国交省の調査によると、東京都の中間層の世帯は基礎支出(食料費、家賃、光熱水道費)が全国一高いため、可処分所得から基礎支出や費用換算した通勤時間を差し引いた金額は全国最下位、つまり経済的豊かさで最下位となっている。さらに首都直下型地震に伴う災厄の不安が付きまとう。東京は決して豊かで安心できる街ではないのだ。
コロナ禍で東京都市圏の人口が減少に転じたわけではない。テレワークの普及で近郊への転居は多少進んだものの、本格的な地方への移住に結びついていない。テレワーク先の土地は埼玉や千葉、神奈川県など近郊に留まっている。人口移動は経済そのものだ。地方へ呼び戻すには地方での働く場と企業への支援、地方自治体の受け入れ態勢が欠かせず、税制の優遇やデジタル化へ思い切った投資も重要だ。
今、緊急的なのか、地方でテレワークする若者や家族が暮らすケースが出始めている。富山県内でも仮の移住先が気に入り、定着を決めたというホットなニュースも散見する。移住地の選択肢を広げてもらうため、富山県と県民が一丸となって、多様な情報発信力を磨きたい。
陶淵明は終のすみかを故郷に求めたが、令和に生きる都会の若い人には人生の新天地、富山の地で再スタートを、とエールを送りたい。
(S)