揺らぐサムスン共和国:5Gスマートフォンも失速するサムスン電子
国士舘大学経営学部客員教授 石田 賢
5Gスマートフォン(以下5Gフォンと略)市場が熱い。5GフォンがAIやIoT(モノのインターネット)などと融合すれば、新しい製品やサービスなどが創出されることになり、今後、その潜在成長力に期待が寄せられている。
調査会社ストラテジー・アナリティックス(以下SAと略)によると、今年第2四半期の5Gフォン出荷台数は9,460万台で、前期より4%増加した。SAは、今年全世界の5Gフォン出荷台数が6億2,400万台に達すると予測しており、これはスマートフォン市場全体の4割を5Gフォンが占めることを意味する。来年の出荷台数は、前年比39.4%増の8億7,000万台に達するとしている。
またエリクソンの報告書によれば、全世界5Gフォン利用者数は、昨年の2億2,000万人から今年はその2.6倍にあたる5億8,000万人になると予測している。このうち、全世界の70%にあたる4億400万人が中国の利用者とみている。

図表1 中国5Gフォン市場の企業別シェア(2021年第1四半期)
資料 : ストラテジー・アナリティックス(SA)
5Gフォンは大いに注目されている市場でありながら、サムスン電子が投入した5Gフォン・ギャラクシーS21の販売は不調が伝えられる。特にサムスン電子にとって深刻なのは、5Gフォンの最大の市場である中国において、超低空飛行に追い込まれていることである。サムスン電子の中国における5Gフォン市場占有率はわずか1.3%にすぎず、第7位に終わっている(図表1)。
全世界の5Gフォン市場を企業別にみると、やはりアップルが強い(カウンターポイントリサーチ調べでは2021年第2四半期シェアトップの34%)。アップルは昨年10月に初めて5Gフォンであるアイフォン12が、発売からわずか7カ月で1億台を突破した。

図表2 世界5Gフォン市場の企業別シェア(単位:%)
注 : アンドロイド基盤5Gスマートフォン市場の占有率
資料 : ストラテジー・アナリティックス(SA)
アンドロイド基盤の5Gフォン市場の占有率を同じ第2四半期でみると、シャオミ25.7%(出荷台数2,430万台)、Vivo18.5%、OPPO17.9%に次いでサムスン電子が出荷台数1,560万台の16.5%と続いている。アップルが断トツのトップであることを勘案すると、サムスン電子は実質第5位にまで落ちている(図表2)。
さらに全世界5Gフォンの売上高(金額ベース)の比率でみると、アップルは今年第1四半期に全体の53%を占め、サムスン電子の14%に大きく水をあけている。アップルはこの9月には5Gフォン「アイフォン13(仮称)」の発売を予定しており、高級製品のラインナップを充実していく戦略である。
アップルは中国消費者にプレミアム製品とのブランドイメージが浸透・定着していることから、高価格製品であっても市場に深く浸透している。アップル製品に対する中国人の再購買意欲は極めて高く、安定したシェアを堅持している。
一方のサムスン電子の5Gフォンを華為、Vivo 、OPPO、シャオミ(この3月発売のRedmi Note10 5Gは30万ウォン台)などの低価格製品と比べると約4割高く、機能面でも差が見られず、しかもアップルのような高いブランドイメージはない。
サムスン電子の5Gフォンは、アップルのプレミアム戦略と中国製のコストパフォーマンス戦略の挟撃に合っている状態である。サムスン電子の5Gフォンを含むスマートフォンの中国市場での占有率は、今年第1四半期には0.6%まで低下しており、ほぼ存在感を失っている。
こうした不振を払拭するために、サムスン電子の戦略は、プレミアム製品から中低価格製品まで品ぞろえを豊富にし、中国人顧客に十分な選択肢を与えることで、中国市場を打開しようとしている。
プレミアム製品として注目されているのは、ギャラクシーS21ウルトラ5Gで、カメラの機能において人工知能(AI)技術を大幅に取り入れた製品である。それでもこの新製品でアップルが投入するアイフォン13(仮称)に打ち勝てるかどうか疑問符が付いている。
一方、中国市場の中低価格製品をターゲットとして考えた場合でも、Realme(OPPOの若年層向けブランド)などの5Gフォンと価格で互角に戦えるかとなると覚束ない。サムスン電子は、5Gフォンの先行市場である中国市場での不振が世界シェアの下落を加速している。
サムスン電子にとって主力事業のひとつであるスマートフォン事業が後退の歩を早めており、5Gフォンに投入される折りたたみ式スマホ(フォルダブルスマホ)がシェア回復にどこまで貢献するか、いずれにしても根本的な打開策が見当たらず、5Gフォンの失速が、スマートフォン事業全体の不振に波及しかねない。