【新刊紹介】「コロナ禍の日常 地方の窓から見えた風景」梅本清一 著

 著者は長年、北日本新聞社の記者として地方分権に鋭く切り込んできたジャーナリスト。未知のウイルスが瞬く間に世界を席巻し、人々の日常を変えてから1年余。先の見えない日々に当初は頭がおかしくなりそうだと感じた著書であったが、同じように世界中の人々が悩み、もがき苦しんでいると気付き、ペンを取った。

 「地方、地域に軸足を置き、虫眼鏡のような窓から実写するよう心がけた」という昨年3月から8月までの半年の記録は、富山県内の人々の日々の暮らしや出来事を丁寧に拾い集め、温かく、時に鋭く切り取っている。

 著者が住まいを置く射水市の町内会長に就いて早々、余儀なくされた春祭り中止の決断をはじめ、様々な伝統行事やイベントの中止、飲食店や観光産業の苦悩、活動がままならぬボランティア団体、マスク不足、帰省の規制、新しい生活様式―。コロナ禍にあって日常生活にある「地域活動」の重要性を再認識したという著者は「コロナに克つには人間と人間のきずな、”地域の力”が大きい」と、新たな視点や知恵で力強く再稼働する団体や有志の姿を紹介。

 また、今回のコロナ禍で垣間見えた国と地方の関係や、東京一極集中の弊害の大きさ、国会と地方議会の脆弱さなどを挙げ、「民主主義は国や上から与えられるものではなく、地方や地域の中で育まれる」と指摘。そして、ポストコロナ時代に向けて「地方分権」ならぬ「地方大権」を展望する。

 著者は1951年富山県射水市生まれ。1974年北日本新聞社に入社し、政治部長、取締役編集局長、高岡支社長などを務め、2014年退社。現在は相談役。著書に『春秋の風―「震」の時代に生きる』(北日本新聞社)、『地方紙は地域をつくる―住民のためのジャーナリズム』(七つ森書館)、『地方議員を問う―自治・地域再生を目指して』(論創社)ほか。四六判、176頁。論創社発行。定価1,500円(税別)。