揺らぐサムスン共和国 :外部委託(ODM)で競争力の回復急ぐ サムスン電子

国士舘大学経営学部客員教授 石田 賢 

 サムスン電子は、アップルより2年遅れの2009年にスマートフォン事業に進出して以来快進撃を続け、2012年以降は、世界市場の20%以上のシェアを占め、今日までトップの座を獲得している。2012年、2013年には30%を超えるシェアを誇るまでに急成長した。ところが昨年、サムスン電子は世界シェア20%を割り込み、トップも危うくなる事態に追い込まれている。

 この原因は、サムスン電子のスマートフォンが上位機種ではアップルに抑え込まれ、低価格機種では中国企業の追い上げを受けただけではなく、これまで需要先であった新興国においても地元企業が生産するようになり、まさにサンドバッグ状態に陥っている。

 アップルは昨年秋にアイフォン12の販売を開始し、アイフォン12とアイフォン12プラスを合計すると昨年8,000万台を突破した。この結果、5Gスマートフォン販売量で世界全体の24%に達し、さらに今年9月にはアイフォン13シリーズが販売される。低価格機種においてもアップルは、今年1~6月には低価格モデルであるSEを投入することで、合計約9,500万~9,600万台のアイフォンを製造する計画である。

 また周知のとおり、華為やシャオミに代表される中国企業により先進国から新興国市場に至るまで、サムスン電子は猛追を受けている。例えばインドおよび東南アジア市場をみると、中国・OPPOが中低価格機種をターゲットにしたブランド・リアルミ(realme)の躍進が目立ち、サムスン電子のスマートフォンは、次々とトップの座を奪われている。

 華為が米中貿易紛争の制裁にあって、スマートフォンのシェアを落としているが、華為以外の中国企業と共に勢いを増しているのがアップルである。アップルの5Gアイフォン12のシリーズが、販売開始が遅れたにもかかわらず、昨年8,000万台を突破する勢いと好調である。

図 1 世界のスマホ市場占有率の推移
資料:市場調査会社ストラテジーアナリティックス(2020年12月8日)

 この結果、2020年の世界スマートフォン市場占有率は、市場調査会社ストラテジーアナリティックス(SA)の推定によれば、第1位がサムスン電子の19.5%、第2位アップル15.5%、第3位華為14.4%と続く(図1)。このデータから読み取れるのは、サムスン電子のシェアはズルズルと落ちているのに対して、アップルのシェアは15%前後で堅調に推移していることである。

 これまでサムスン電子は、スマートフォンの中低位機種の生産を中国としてきたが、価格競争力で中国企業との争いに敗れ、深圳と天津の通信設備および携帯電話工場を閉鎖したのに続き、唯一残っていた広東省・恵州の携帯電話工場も、生産縮小およびリストラを実施してきたものの立て直せず、2019年末閉鎖となった。

 そこでサムスン電子が力を入れ始めているのが、ODM(Original Design Manufacturing:委託者のブランドで製品を設計・生産すること)という外部委託生産である。プレミアム製品は当面、自主開発・生産し、中低価格製品ではODMによるコスト競争力の回復を狙う戦略である。

 一方のアップルに対抗する高級機種の生産は、韓国内とベトナムに集約された。サムスン電子は、昨年2月に打ち出したスマートフォン・ギャラクシーS20シリーズの不振を挽回するとともに、アップルの勢いを牽制する狙いから、ギャラクシーS21シリーズの販売時期を昨年より1カ月以上早めた。

 さらに昨年末に開催されたIM(IT・モバイル)部門の戦略会議では、今年発売するギャラクシーS21等5Gスマートフォン販売拡大とコスト競争力を強化するとともに、フォルダブルフォンの普及推進、5Gネットワーク関連設備の新規受注が議論の対象となったと伝えられる。

 サムスン電子としては、ODMにより部品や素材を供給するだけで、自社ブランド製品が安くでき上がる。ただ問題としては、サムスンブランドの品質を維持できるかどうか、委託先企業の力量に依存する。

 サムスン電子は、中国の生産体制をODM生産に転換することで、中低価格スマートフォンの価格競争力を回復させ、世界トップシェアを堅持する狙いがある。ODM生産は、中国市場の奪回とともに、新興国市場の開拓に一役買うことになるとみられる。

図 2 スマートフォンメーカー別ODM比重の変化
資料 : カウンターポイントリサーチ(2020年12月14日)

 中国の有名なODMメーカーは、ウィンテク、和親、ロングチア、ジュンヌなど4社である。サムスン電子は、ウィンテク、和親などを活用してODM生産へとシフトし、2020年にはその割合が30%に上昇したと見られている。しかし図 2に示すように、すでにLG電子は70%、シャオミのODMは80%に達していると見られ、サムスン電子のODMシフトは、かなり後れを取っているのが現状である。