とやまの土木―過去・現在・未来(46) とやまとSDGs(その2)

富山県立大学工学部環境・社会基盤工学科准教授 中村秀規
はじめに

 本年(2020年)1月14日発行の「とやまの土木―過去・現在・未来(24)」1)で、私は「とやまとSDGs」について書きました。SDGsとは何か、から始め、日本とSDGs、とやまとSDGsと論を進め、最後に<わたし>とSDGsについて述べました。地球大で新型コロナウイルスの感染拡大とそれへの対応が行われる中、SDGsの捉え方や推進活動にも変容や深まりもあったと考えます。

 ここではとやまとSDGs、そして<わたし>とSDGsについてのアップデートを行いたいと思います。

とやまとSDGs―富山県立大学における一学習事例
1 SDGsと卒業研究―学生が研究と人生の主人公になること

 前項では、大学教員である私が、とやまのSDGs推進団体の一つである一般社団法人環境市民プラットフォームとやま(PECとやま)さんとともに、大学3年生3名の学生がそれぞれ異なる3つの企業・団体を訪問し、企業・団体としてのSDGsに関連する取組みの内容とねらいや、個人としての人となりとSDGsへの想いなどを伺ったことを紹介しました。

 この3名の学生は現在4年生として卒業研究に取り組んでいます。SDGsに関連する幅広いテーマの中から、自身が関心を持つ問いを作り上げて、答えを探求しています。3年次のSDGs人インタビューと関連するような分野の文献をいくつか読み込み、探求するテーマと問いを策定しました。

 一人の学生は、前稿でも紹介した、日本の人間安全保障―一人一人のいのち・暮らし・尊厳に着目するという、人類に対する日本の貢献が大きいと考えられる世界観―の視点で見た、個人の置かれた状況(子ども、女性、若者、高齢者、障害者、性的指向・性自認、災害被災者、そして外国人)と自殺の関係を研究しています。

 また、生活者の意識と行動に着目して、プラスチックが生物・生態系や経済・社会・健康など人に与える影響とその対策を考えている学生もいます。さらに、富山における空き家抑制と減少に向けて、北陸および全国での空き家の要因と外部不経済(市場取引を経由せずに発生する、取引当事者以外への問題の発生)、そしてその対策について調査検討している学生がいます。

 いずれのテーマであっても、個人、地域・国、そして地球大の事柄がどのように関係しているのか、またSDGsの3側面である自然環境・社会・経済がどのようにつながり合っているのか(その事実関係がどこまでわかっているのか)を確認し理解することから始め、そのうえで学生自身の問いを発展させていき、その問いに答えるにふさわしい方法を、利用可能な時間と手段の範囲で検討・採用して、答えを得ていきます。これは学生本人が探求するに足ると感じ考える―納得する―問いを問うために、必須の過程です。問いは、問い自体を問う過程を通じて、むしろ帰結として見出されるものと考えています。

 その探求・発見の過程を、私は学生と歩むことになります。面白い答え、意外な答え、知的付加価値の高い答えが得られることも意味がありますが、それ以前に、この問いに答えたかったのだ、という問いを見い出すことのほうが、より重要であり、そのような人生を通じた過程の一部として、卒業研究が機能するなら、それこそが(研究をなりわいとする教員がいる)高等教育機関における学習の価値であると考えています。

2 学生によるSDGs人の取材(その2)

 一方で、新しくこの4月に3年生になった別の学生3名が「プレゼンテーション演習」と呼ばれるセミナーの中で、やはりPECとやまさんの協力を得て、コロナ状況でのとやまのSDGs人3名への取材を通じた、自身とSDGsとの関係性の探求・発見を行いました。取材に応じてくださった方々は、みなさんコロナ状況で新たな困難を抱えておられましたが、自らの信念に立ち返り、状況に適合しながら、解決を模索したり、乗り越えたりしておられました。

 取材はオンラインで行われ、とても楽しいものになりました(私も全回参加しました)。取材のテーマは、昨年度同様、属する団体でどのようなSDGs推進活動を行っているか、また個人として自分のSDGs関連の(あるいは、SDGsのレンズを通してみると、SDGs関連の活動であると解釈することができる)活動にどのような想いを持っているか、でした。この結果については、学生がとりまとめたものを、写真付きでPECとやまさんのウェブサイト2)で見ることができます(上述した昨年度の学生3名の取材報告もありますのでご覧ください)。

 ここで紹介したいのは、女性の富山のSDGs人のお一人である、株式会社エコロの森の森田由樹子さんを取材した、女子学生の報告です。本来どういう事業・活動を行っている団体なのか、どんなきっかけでどのようなSDGs推進活動を行っているのか、これからどうしようとしているか、そしてそれを推進しているご本人にどのような想いがあるか、を理解して、関心あるすべての方々に共有するところまでが学習活動ですが、この学生は、取材報告に自分の感想も書いていいか、と尋ねてきたのです。私としてはぜひそうしたらいいと考え、その追加の内容も掲載してもらいました3)。以下がその内容です:

ライターの感想
 森田さんは自分のやりたいことを仕事にされています。そのためには相当な努力をしなければならないこと、多くの苦労があることがわかりました。それらを乗り越えられたのは、自分が心からやりたい、負けたくないという思いを持っていたからだと感じます。また、仕事を続けてきたからこそ、次のやりたいことにつながっていくのだと取材を通してわかりました。自分のやりたいことが明確でそれを成し遂げるために試練を乗り越えてこられた姿は、同じ女性として本当にかっこいいと感じました。

 「とやまのSDGs人」の想い、を知ろうとし、紹介しようとしているのは、一人ひとりの生きよう、在りようこそが、<わたし>が変わる可能性を産み、さらにその帰結として(さまざまの)世界が変わる可能性を産むから、そう理解しているからです。  

 学生が、必修授業の一環として、たまたま私が担当するセミナーに学籍番号に基づいて配属となった3名が、偶然SDGsについて学び、偶然SDGsと<わたし>を考えることになるわけですが、大学の中の学生や教員、職員だけでなく、大学外のさまざまのひとびとと接し、とりわけその生きよう、在りようが響くとき4)に、人が変わると考えます。学習の過程で、在学中に一度でも<ひびく>機会を得たなら、それは意味のあることでしょう。

 そして大学の教職員や大学を有形無形に支える社会のすべての人にとっても意味があるように、そのような機会を発現する可能性の高い、高等教育機関(大学)の学習環境、教職員や学生の在りようとは何か、について、SDGsを契機としてもしなくても、実験実践を続けていきたいと考えています。