富山県内企業の設備投資進捗動向(1) 新型コロナ、設備投資計画にも影響ジワリ

 財務省が12月1日発表した2020年7~9月期の法人企業統計(金融業・保険業を除く)によると、設備投資額(ソフトウエア投資を含む)は全産業で前年比10.6%減と2四半期連続で減少し、4~6月期(11.3%減)からさらに減少、低い水準にとどまっている。業績の急速な悪化や先行きの不透明感から慎重な投資姿勢の回復感はうかがえない。

 設備投資の足を引っ張った主な業種は、金属製品(56・7%減)や電気機械、サービス業やリース業など、いずれも前年より2~5割の大幅な落ち込みとなった。設備投資(ソフトウェア投資を除く)は、進捗ベースで計上されるため、新型コロナの影響による自粛期間中の発注減が遅れて反映されている面もある。法人企業統計は四半期ごとに調査が行われ、資本金1,000万円以上の法人企業が対象。

 10月28日に開かれた全国財務局長会議のなかでも、北陸財務局は富山県について「新型コロナウイルス感染症の影響により、厳しい状況が続いているものの、一部では緩やかに持ち直しつつある」と総括した上で、生産活動は「下げ止まっている」とし、管内の設備投資は今年度「減少見込み」との判断を示している。

 また、日本政策投資銀行北陸支店が8月に発表した北陸地域設備投資計画調査(資本金1億円以上の民間企業が対象)によると、富山県は全産業(電力除く)で前年度計画比6.4%減の1,183億円で2年ぶりの減少となる。非製造業が3年連続の増加となった一方、製造業が減少に転じたことが響いたとしている。

出所:2019・2020・2021年度北陸地域設備投資計画調査(日本政策投資銀行北陸支店)

 富山県内企業(製造業)の2020年1月~12月の工場新設計画ならびに着工、完成した主な案件をまとめてみると、電子部品関連の一部で緩やかに持ち直しがみられるものの、事業環境全体に未だ厳しさが続くとみている。一方で投資が底堅い分野もある。例えば医薬品では、ダイトが21年5月期の設備投資を65億円と約70%増やし、今年度中に原薬の新棟建設に着工、富士製薬工業も今年12月末に新製剤棟の着工に入る。新型コロナの影響を受けて医薬品の需要が減る可能性があるが、女性医療領域など育成分野の設備増強を続ける。

 政府が11月25日に発表した11月の月例経済報告で、国内景気の現状について「依然として厳しい状況にあるが、持ち直しの動きがみられる」との判断を5カ月連続で据え置いたが、新型コロナウイルスの感染第3波が拡大している影響を踏まえ、先行きは「感染症が内外経済を下振れさせるリスクに十分注意する必要がある」と警戒感を示した。半面で、設備投資は「弱い動きとなっている」から、「このところ減少している」と下方修正した。

 実際に、計画していた工場新設の着工時期、完成予定時期に遅れが生じている県内企業が出始めている。「コロナ第3波が国内外で急速に広がり、感染を避けるため建設資材や設備据え付け要員の手当てが滞っている」ためだ。

【富士製薬工業】
富山工場にホルモン錠剤の製剤棟を新設、12月末着工

 女性医療、急性期医療領域を得意分野とする医薬品メーカー、富士製薬工業(本社東京、社長岩井孝之氏)は2024年9月期までを期間とする中期経営計画を策定し、この間に総額320億円の投資を行うと公表。総投資額の40%を設備投資に充てる予定で、富山工場(富山市)では主要製品であるホルモン製剤の拡大を図るため、錠剤棟を新設する。今年12月末に着工し、2022年6月にプロセスバリデーション(PV)を開始する計画だ。

 錠剤新棟は地上3階建て、延べ床面積3,202.56㎡。さらに錠剤新棟の稼働に引き続き、2022年6月着工予定で多種シリンジ剤形と新製品および欧米輸出に対応した高活性マルチシリンジラインを導入する。

 女性医療領域では年内にホルモン補充療法の補助を予定適応とするプロゲステロンを国内承認申請予定のほか、エムスリー(本社東京、代表取締役谷村格氏)と共同開発・共同販売契約の締結に合意したエステトロール/ドロスピレノン配合剤(予定適応:月経困難症)の国内第Ⅲ層試験開始を目指している。成長戦略を進めるバイオシミラー事業でもアイスランドのAlvotech社との間で、2018年に合意済の1製品に続き、4製品について国内での開発・販売に関し条件合意した。また、新たに3製品の検討を開始、開発・販売を加速させる。

【ダイト】
原薬の安全・供給体制強化へ「第七原薬棟」新設

 ダイト(本社富山市、社長大津賀保信氏)は、本社工場(富山市八日町)敷地内に安定供給体制の確立と、既存の原薬製造設備を含めた安全対策強化に対応したジェネリック医薬品向け原薬を製造する第七原薬棟を建設する。

 海外産原薬が原因で欠品が発生したり、発癌性物質の混入が認められたり、さらに国内工場でもGMP逸脱を引き起こし自主回収に追われるなどのケースが後を絶たない。改めて安定供給の確保とともに国内製医薬品原薬に対する需要が高まっていることに対応するもの。

 投資予定額は約35億円。鉄骨造り5階建て、延べ床面積は2,433㎡。設備機器は200L、1,000L、2,000Lの各プラントに自動温度調整システムなどの自動化設備を導入し省力化を図る。当初、2020年11月着工計画だったが、2021年の年明けに着工し、12月の竣工予定としている。

【鹿島興亜電工】
富山工場を新設・移転 売上規模2.5倍に

 固定抵抗器の世界大手KOAの子会社、鹿島興亜電工(本社石川県中能登町、社長野向一範氏)は、富山工場(砺波市)を現工場の近接地に移転し、新工場を建設する。既存工場は1984年に立地してから35年を経て建物の老朽化が進み、生産スペースの拡張余地がなく移転、新設するもの。

 計画では、2021年5月に着工し、22年4月に完成する。総投資額は37億円。主力製品である自動車や通信機器などに使うハイブリッドICに加え、スマートフォンなどに搭載する厚膜チップ抵抗器の生産能力を売り上げベースで2.5倍に拡大する。

【日本カーバイド工業】
早月工場で再帰反射シートと次世代機能性フィルム生産設備を増強 

 機能樹脂やフィルム・シートなどを製造する日本カーバイド工業(本社東京、社長杉山孝久氏)は、滑川市の早月工場でフィルム・シート製品の設備を増強する。また中国での生産体制も整備してサプライチェーンを見直し、グループ全体における生産体制の最適化を図る。

 同社は2019年度に中期経営計画「NCI-2021」をスタート。高機能樹脂、機能性フィルムを戦略分野と位置付け、注力領域をセーフティ・モビリティ、成長地域をアジアと定めた成長戦略を進めてきた。これまで、看板や電車・バスなどのラッピングに使用されるマーキングフィルム、二輪車の装飾用ステッカー、道路標識や海外のカーナンバープレートに使用される再帰反射シート(光が来た方向に光を反射する)などを手掛け、再帰反射シートの製造は中国・恩希愛(杭州)薄膜有限公司で行っている。

 今回、早月工場の設備増強により再帰反射シートの製造を日本と中国の2拠点とするほか、新たに新規素材フィルムや次世代機能性フィルムを発売し、建材分野、家電分野、自動車分野などの新市場への参入を目指す。設備投資額は約35億円。着工時期は現段階で未確定としているが、生産開始は当初計画に沿って2022年下期を予定している。

 また、中国・恩希愛(杭州)薄膜有限公司でも「NCI-2021」成長戦略の一環として、既存のフィルム事業に加え、今後中国での需要拡大が見込まれる光学フィルム用粘着剤を新たに開発し、来年度より製造、販売を開始する。