とやまの土木—過去・現在・未来(43) 富山県における井戸掘削工事で発生する廃土と、第一次産業で発生する廃棄物系バイオマスの有効活用の検討
富山県立大学工学部環境・社会基盤工学科講師 兵動 太一
はじめに
2019年11月29日号の「富山で液状化を考える」と題した内容は「液状化」に関連するものでした。今回は私が富山県立大学に来て取り組み始めたことに関してお話ししたいと思います。
富山県には地下水が豊富で水質が良い場所が多くあり、一般家庭においても宅地内に設置した井戸から地下水を電気自動ポンプで給水に用いる自家井戸が多く存在しています。また、富山県では第二次産業が盛んなため工業用水に地下水を使用することも少なくありません。
さらに、全域が豪雪地帯であるわが県では、道路や駐車場の融雪に消雪パイプを使用しているところも多い。北海道とは違い、路面温度が比較的高いことから、路面温度よりさらに温度が高い地下水を散布することにより雪を溶かします。これらの背景から富山県では井戸掘削工事が盛んに行われています。しかしながら、この井戸掘削工事も種々の問題を抱えています。
一方で富山県は四方を豊かな自然に囲まれており、第二次産業とともに第一次産業が盛んに行われています。ここで生産されたものの多くは加工され、私たちの手元に来ますが、加工過程で多くの廃棄物が出ます。これら廃棄物系バイオマスは、環境省より様々な利用用途が提案されていますが、処理コストがかかり、再利用が敬遠されがちです。
本稿では、この2つの問題を解決するべく立ち上げた私の研究テーマの一部を紹介したいと思います。
富山でよく利用される井戸掘削工法(パーカッション工法)

写真-1 ワンビット
富山県においては、地盤内に玉石層が多いため井戸掘削にパーカッション工法を用いることが多いです。本工法は、ワイヤーロープの先端に1トン以上の重いビット(写真-1)を吊るし、一定のストロークで自由落下させ、打撃を与えることにより、孔底の地層を掘削します。掘削の際に孔壁が崩れないように安定液を孔内に注入します。掘削が進むと掘り屑が溜り、安定液の孔壁保護の効果が薄くなります。このときビットを地上に引き揚げ、代わりにベーラーを孔底にワイヤーで降ろし掘り屑を浚い取ります。そして再度安定液を加えて掘削を進め、堀り屑が溜ればそれを取り除く…という工程の繰り返しをします。
本工法は写真-2のような機械を使用します。前述の堀屑を孔内から取り除き、安定液を加えるタイミングなど孔内の様子を調べるのに、職人(オペレーター)がワイヤーロープを握りその振動によって判別を行います。建設業全般で言われていることですが後継者不足であることや、この職人の感覚を習得するのが非常に難しいことから後継者育成が困難です。

(左)写真-2 パーカッション工法に用いる掘削機械の全容
(右)写真-3 施工状況
さらに、職人はワイヤーロープに引っ張られ事故につながる可能性が大きかったり、常に振動を感じていることからはくろう病などの職業病に悩まされたりもしています。そこで、パーカッション工法は職人技術の機械化が求められています。このお話は今回のテーマから少し脱線してしますため、また別の機会があればお話しします。
さらにもう一つ、井戸掘削業者は大きな問題に頭を抱えています。孔内保護のための安定液は山粘土を水に溶かして使用します。掘り屑が混ざった使用済みの安定液は、砂分が多く混ざってしまい、再利用には向きません。また、多くの粘土分を含むためそのまま埋め立て処分をすることができません。こういった土は処分場で処理する必要がありますが、井戸掘削業者は中小・零細企業が多いため、処理コストが経営の負担になってくるのです。
井戸掘削工事で発生する廃土と第一次産業で発生する廃棄物系バイオマスの混合土強度特性
前述の処分に困っている廃棄物系のバイオマスと掘り屑が混ざった使用済みの安定液(廃土)を安定的なおかつ大量に消費するために、投稿者たちは建設施工の地盤材料として使用できないか検討してみました。例えば、盛土材や舗装材として使用ができれば、これらの廃棄物を捨てることなく有効活用ができます。私たちのこのテーマに関する研究の一部を紹介します。
掘り屑が混ざった使用済みの安定液を以下スライムと称することにしましょう。異なる現場で採取した2種類のスライム(スライムⅠ、スライムⅡ)と安定液のベースとなる山粘土の物理的性質を表-1に示します。スライムⅠは液性・塑性限界および塑性指数が計測できないので、土質分類では砂質土に分類されます。また、図-1に土質試料の粒度分布を知るために粒径加積曲線を示します。全ての土質試料が比較的粒度分布の良い土だということがわかります。

表-1 土質試料の物理的性質

図-1 土質試料の粒径加積曲線
こうした結果を踏まえて、スライムⅠは、粗粒分が50%以上、細粒分が15%以上であるため、砂質土「S」の中の細粒分まじり砂(SF)に分類されます。スライムⅡは細粒分が50%以上であり、塑性図上で分類すると、粘性土「Cs」の中の粘土(低液性限界)に分類されます。
これらの土質試料に廃棄物系バイオマスを加えるわけですが、今回は林業からかんなくず、おがくず、これらを燃焼した焼却灰、漁業からカニ(ベニズワイガニ)の殻を粉砕した物を混合してみました。また、地盤材料として土質材料を使用するときに少量のセメントを混ぜることがあることから本実験でも少量のセメントを混合しました。
図-2にスライムⅠに任意の廃棄物系バイオマスを混合した物における一軸圧縮強さと乾燥密度の関係を示します。ばらつきはあるものの、乾燥密度が増加するにつれ、一軸圧縮強さが大きく傾向が見て取れます。一般的に土は乾燥密度が増加すると強度が増しますが、種々の廃棄物系バイオマスにおいても土と同様の傾向にあることがわかりました。

図-2 スライムⅠと廃棄物系バイオマスの混合土における一軸圧縮強さと乾燥密度の関係
また水セメント比やバイオマス混合率に関係なく乾燥密度の増加とともに一軸圧縮強さが増加することがわかりました。多くの設計強度で一軸圧縮強さ100kN/m3以上を求めることが多いのですが、今回の試験では3ケースを除いた材料でこれをクリアしていました。
図-3に一番強度を発揮した廃棄物系バイオマスの焼却灰とスライムⅠ・Ⅱの混合土における一軸圧縮強さと焼却灰の割合の関係を示します。緑のプロットがスライムⅠ、赤のプロットがスライムⅡです。図より焼却灰の割合が増えるほど強度が増していることがわかりました。また、同じ焼却灰の割合であればスライムⅡの方がスライムⅠよりも強いことがわかりました。

図-3 焼却灰を混合した改良体における一軸圧縮強さと焼却灰混合率の関係
図-4に一番強度が発揮できなかったカニの殻とスライムⅠ・Ⅱの混合土における一軸圧縮強さとカニの殻の割合の関係を示します。焼却灰と異なりカニの殻の割合が多いものほど強度が下がることがわかりました。また、こちらも焼却灰の時とは異なり、同じカニの殻の割合においてはスライムⅡの方がスライムⅠより強度を発揮することがわかりました。この結果からバイオマスの種類によって混合土の強度の傾向が変わってくることがわかりました。

図-4 カニの殻を混合した改良体における一軸圧縮強さと焼却灰混合率の関係
今回挙げた結果は、富山県における井戸掘削工事で発生する廃土と第一次産業で発生する廃棄物系バイオマスの有効活用に関する研究の中でもごく一部です。例えば日本は地震大国であるため地盤の動的挙動を知る必要があります。また、廃棄物系バイオマスを地盤材料として使用した時に環境への影響がどうなるか調べる必要があります。
投稿者たちは引き続き、これらの廃棄物の有効利用を実現するために、いろんな視点で研究していきたいと思っております。
参考文献
・富山県朝日町HP:https://www.town.asahi.toyama.jp/ (2020年8月7日)閲覧
・環境省HP 廃棄物・リサイクル対策:http://www.env.go.jp/recycle/waste/biomass/biomass.html (2020年10月30日閲覧)
・佐藤鑿泉工業株式会社HP:http://www.satosakusen.co.jp/business/sakui/percussion (2020年11月13日閲覧)
・公益社団法人地盤工学会:地盤材料試験の方法と解説,2019
・兵動太一・内田慎哉・寺迫太陽・荒井靖仁・掛川智仁:第一次産業で生じる種々の廃棄物系バイオマスがセメント改良土の強さに及ぼす影響,第14回地盤改良シンポジウム,2020年(印刷中)
ひょうどう・たいち 山口県出身。山口大学大学院理工学研究科博士前期課程修了後、株式会社錢高組、 早稲田大学理工学術院、東京理科大学を経て着任。地盤工学、地盤防災学などを専 門とする。