県内上場企業、第1四半期決算から見える2021年3月期見通し(2)

明暗わかれる2021年3月期見通し

 2021年3月期の第1四半期(4-6月)連結は新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けた事業環境のもとで多くの企業は厳しい業績を余儀なくされた。県内上場企業でも受注・販売環境が激変し、売り上げ(前年同期比)は17社(金融除く)のうち半減した1社を含め12社で減収、増収となったのは5社だった。収益では減益ながら5社が経常黒字を確保、7社が赤字に転落した。

 中でも想定以上の業績不振となったのは新聞用紙、印刷用紙などの中越パルプ工業、ホンダグループ向け主体の自動車及び二輪車用エンジン部品を主力にする田中精密工業。一方で赤字計上とはいえ、2021年3月期の業績を上方修正もしくは2020年5月に発表した今期見通しを計画どおり据え置くとしたのは、スポーツウエア・用品のゴールドウイン、搬送・検査ラインなど工場自動化装置向けアルミフレームの部材メーカー、エヌアイシ・オートテックの2社がある。

【ゴールドウイン】上方修正、実質増配へ

 第1四半期は32.5%の減収、営業、経常、利益ともに第1四半期として4年ぶりの赤字となった。新型コロナウイルスの感染拡大でスポーツイベントの自粛や中止により「Speedo」「エレッセ」などのアスレチック関連ブランドが苦戦、直営店(8月6日現在)155店舗のうち最大で150店舗を臨時休業した。

 半面で外出自粛で自宅でのトレーニングやオンラインヨガ、近場でのキャンプに人気が集まり、ネット通販などeコマース事業の拡充とともに「ザ・ノース・フェイス」はじめ「ヘリーハンセン」「ダンスキン」などのブランド商品の卸販売も好調で、返品、販売ロスの削減効果が大きかった。

 ただ販売社員への全額給与保証により販売費・一般管理費比率が55.5%と14ポイント高まり、韓国の関連会社の投資利益の増加でも補えず損失を計上したが、それでも期初予想の落ち込み幅を大きく縮減した。

 直営店は6月に海外を含む全店で営業再開、ネット通販の売れ行き好調に加えて、特に秋冬もの商材に強い下半期を加味すれば本格的な回復が見込まれる。これを受けて2020年第2四半期、2021年3月期ともに5月発表の業績予想を上方修正した。

 第2四半期(4-9月)まではまだ赤字が残るものの、2021年3月通期の売上高は840億円(前回予想は750億円)、営業利益は81億円(同35億円)、経常利益は96億円(同47億円)の黒字、純利益は64億円(同33億5,000万円)にそれぞれ引き上げ、株主配当も中間15円、年間60円を見込んでいる。2019年10月1日付けで1:2の割合で株式分割しており、配当性向は42.4%になる。

 新型コロナウイルス感染拡大の収束めどは未だ不透明としながら、オリジナルグローバルビジネスの強化、アスレチック事業の収益改善へリブランディング推進、eコマース事業の拡大と自主管理型ビジネスの確立などを進める一方、環境配慮やサスティナブルを意識した製品づくりにも積極的だ。 

 2019年5月よりヘリーハンセンでヨットの帆を再利用するアップサイクルプロジェクトを展開。今年7月には、ザ・ノース・フェイスでも独自の循環型アップサイクルプロジェクトにより不要になったアパレル製品から再生成したリサイクル繊維を用いた環境配慮型製品を発売した。

 このほど社員対象に事業所へのペットボトルの持ち込みを禁止し、事業所内にある自動販売機でのペットボトル飲料をリサイクル可能な缶の商品に入れ替える取り組みを始めた。全国の各事業所で順次実施する計画だ。2019年度の東京本社でのペットボトル飲料(500ミリリットル)の年間購入本数は3万6,600本。二酸化炭素の発生量に換算すると5,746kgとなり、スギの木約410本が1年間に吸収する量に相当するという。

【エヌ・アイシ・オートテック】19年3月期水準へV字回復、増配も

 クリーンルーム・FA装置向けの生産設備用構造材が主力だけに、機械メーカーやFA装置メーカーからの引き合いが新型コロナウイルス感染拡大で急減し、第1四半期は10年ぶりに欠損を計上した。売上高は前年同期比22.4%減少、営業損失は3,800万円、経常損失は3,700万円、最終損失は2,900万円。

 大型設備向けクリーンブースの需要は一段落したものの、小型案件の受注、納品は継続的に堅調を維持し、手持ち受注残の増加もあって2021年3月期第2四半期から大幅な業績回復を見込んでいる。特に動き始めた自動車メーカーの生産再開とともに、同社の国内、タイ工場でも構造材「アルファフレーム」やクリーンブースなどの生産設備用装置の需要が「一時的に需要に供給が追い付かない」状態も発生するほど増えてきているためだ。

 こうした動向をもとに2021年3月期は5月に発表した計画を据え置き、売上高84億6,800万円(前年度比28%増)、営業利益6億1,600万円(同3.2倍)、経常利益6億1,400万円(同3.5倍)、純利益4億円(同4倍)へV字回復する。株主配当も1円増配し21円を予定。

 「IoTと5Gの技術が今後、加速度的に進み、半導体、電子部品、産業機器、自動車などの幅広い産業分野界に大きな変革をもたらす。そのための生産現場の自動化・FA化のニーズはより高まるだろう。当社はそうした生産体制を支えるサポートビジネスとして需要に応えていきたい」(西川浩司社長)。

 2015 年に進出したタイ法人を今年3月に2億4800万円から4億6,100万円に増資、需要見通しが立てば工場増設が考えられるほか、FA装置の製作、アルファフレームシステムの出荷業務を担う重要な拠点として2019年に操業を開始した愛知工場もさらに出荷体制の強化に迫られている。関東地区でもアライアンス戦略の一環として新たな拠点に向けた計画が進む模様だ。

【中越パルプ工業】赤字ふくらむ 

 第1四半期の連結営業・経常損失は4年連続の赤字となり、8月28日に中間(第2四半期・4-9月)及び通期の業績・配当修正を発表。中間、通期とも対前年同期比の売り上げで2割強の減収、営業・経常収支は黒字から見込み以上に赤字幅が大きくなった。

 新聞用紙は発行部数の減少と広告減の影響による頁数の減少に歯止めがかからず、印刷用紙の販売数量もイベントの中止や経済活動の停滞で折り込みチラシなどの需要が落ち込んだことや、企業の在宅勤務の広がりなどで需要縮小が加速した。

 中間期(4-9月)予想は売上高375億円、営業・経常収支とも赤字30億円を見込み、2021年3月期では売上高760億円、営業赤字27億円、経常赤字28億円で最終損失は33億5000万円とした。中間配当(前年同期25円)を見送り、通期予想も不透明。

 日本製紙連合会が発表した2020年7月の紙・板紙の国内出荷量(前年同月比速報値)は新聞用紙が33カ月、印刷・情報用紙が 12カ月、包装用紙は16カ月、白板紙も12カ月、いずれも連続して下回った。同社は新型コロナウイルス感染症の終息後においても、紙・パルプの需要はコロナウイルス発生前の状態までは戻らないことを想定、グループ事業領域の再構築を急ぐ。

 新規事業として、環境問題に対応した新素材の事業化を推進する。高岡工場に今年秋の完成予定の工場では、プラスチックに代わる新素材として注目される「マプカ」シートを製造する。マプカはセルロースファイバーを主原料に合成樹脂を混合した複合素材で、環境経営総合研究所(東京)が開発。プラスチックと同等の機能を持ち、可燃ごみとしての廃棄も可能な環境性能の高い素材で、食品トレイなどに展開していく。

 セルロースナノファイバー(CNF)についても、従来の音響機器、卓球ラケット、和楽器のほか医療、化粧品、工業製品などの分野へも展開するため、高機能CNFパイロットプラントの設置計画を進める。こうした事業を加速することで収益基盤の構築強化を図る。

【田中精密工業】主力のエンジン部品など直撃

 自動車メーカーが世界中で生産停止に踏み切り、需要が急減した影響から主力のエンジン部品などが直撃を受けている。2020年4-6月期は前年同期比で売り上げ半減(44億4,400万円)、営業・経常収支は大幅赤字となった。

 世界4拠点のセグメント売り上げは、インドネシア向け二輪車が堅調だったベトナムを除き北米、タイがそれぞれ65.8 %、60.4%の大幅減収、日本国内も27.4%減少した。営業利益は北米(△4億900万円)、日本(△3億7,500万円)、タイ(△8,100万円)のいずれも損失となり、前年同期の黒字(3億4,000万円)から8億8,400万円の赤字に沈んだ。

 2019年11月にタイで発表されたホンダの新型「CITY(シティ)」(日本名グレイス)に、同社が主力とするエンジン部品、ロッカーアームが採用された。タイでは、2019年の国内販売台数が世界トップのホンダを代表するコンパクトセダンであり、タイ子会社の貢献に期待がかかる。

 ただ自動車の需要全体の落ち込みや二輪車事業が底堅いことを合わせても大きな収益改善にはまだ届かない。21年3月期通期の業績予想は配当ととも開示していない。因みに毎年3月末時点の株主を対象に実施してきた株主優待をこれまでの「100株以上」「1000株以上」の2段階から「500株以上」「1000株以上」の2段階に変更、今後は500株未満は株主優待の対象外となる。

 地球温暖化問題を背景に、自動車の内燃機関がモーターに置き換わるなど自動車の構造や製造工程に大きな変革が進んでいる。こうした流れに対応して電気自動車(EV)用モーターに使用する接着積層モーターコアの接着工程に用いる接着剤塗布装置を開発。成形金型をプレス機から取外すことなく接着剤塗布装置のみの脱着を可能にし、あらゆる形状のモーターコアの形状に合わせて接着剤塗布できる特許取得技術で、自動車各社の自動運転や電気自動車など次世代技術に取り組んでいる。