産学連携や大学間連携による共同研究 医療や電子材料の分野で成果

 変化の激しい競争環境の中でスピード感をもって新たな価値を創出していくため、企業・大学・研究機関などが連携して技術的課題に取り組み、事業化を目指す動きが強まっている。県内の最近の事例として、富山県立大学がテイカ製薬と、富山大学がオンキヨーと、富山高等専門学校が東大など複数の大学と行っている共同研究を紹介する。

【富山県立大学+テイカ製薬】
指定難病・全身性エリテマトーデス治療薬の創製

 富山県立大学工学部医薬品工学科バイオ医薬品工学講座の長井良憲教授とテイカ製薬(本社富山市、社長松井竹史氏)の共同提案課題がAMED(国立研究開発法人日本医療研究開発機構)の「産学連携医療イノベーション創出プログラム」基本スキーム【ACT-M】に採択された。

 共同研究課題は「自然免疫制御による全身性エリテマトーデス(SLE)治療薬の創製」。SLEは自身の免疫システムが誤って正常な細胞を攻撃してしまう自己免疫性疾患で、厚生労働省の指定難病の1つ。

 全身のさまざまな臓器に炎症や障害が生じる病気で、20代から40代の女性に多く、患者数は全国で6万人から10万人と推定される。治療効果が不十分であったり、副作用が出たり、医療費負担が高額であったりなど、満足な治療結果が得にくいことから、SLEの治療は自己免疫病治療の「残された課題」とされてきた。

 これに対し、近年、Toll様受容体7(TLR7)という受容体たんぱく質がSLEの発症・増悪に関与している治療標的分子であることがわかった。長井教授とテイカ製薬は、TLR7の働きを選択的に阻害する低分子化合物を発見。この低分子化合物をもとに、TLR7の働きをより効果的に阻害する新たな化合物を作り出すことに成功した。

 AMEDに採択された事業では、長井教授とテイカ製薬が共同で非臨床実験を行うほか、国内の研究機関と共同で最適化合物の作用機序の解明や薬効薬理試験、ヒト免疫細胞における有効性評価を実施し、同事業終了時の臨床試験開始を目指す。

【富山大学+オンキヨー】
アプリでメタボリック症候群や糖尿病予防

 富山大学は音響機器メーカーのオンキヨー(本社大阪市、社長CEO大朏宗徳氏)、ヘルスケア分野のシステム開発を手掛ける富山大学内のITベンチャー企業キュアコード(本社富山市、社長土田史高氏)とともに、メタボリック症候群や糖尿病の予防・進行抑制効果アプリの共同研究に乗り出した。

アプリのイメージ

 県内企業と連携し、9月から約1カ月間アプリを使った実態調査を行い、健康診断受診者の食事・運動の記録やアンケートの回答をもとにメタボリック症候群になりやすい生活習慣を明らかにする。その後、10月から約1年間かけて調査結果をもとにアプリを利用した介入試験を行い、医師の指導と自己管理による生活習慣改善を促すことで、メタボリック症候群の予防をはじめ、糖尿病や心血管疾患の発症率抑制を目指す。

 富山県はメタボリック症候群と2型糖尿病の罹病率が高く、自家用車保有台数全国第2位の車社会のため、日常的な運動不足に陥りやすいとされている。研究では、富山県民の生活習慣とメタボリック症候群の実態把握、発症抑制の方策を探るとともに、研究で収集したデータをもとに新たな生活習慣指導の開発、医師による指導項目をより具体化したアプリを開発していく。

 富山大学とオンキヨーは、オンライン診療の需要に備え、デジタル聴診器の研究開発も行う。音響機器メーカーとしての技術と富山大学医学部の専門的知見を複合して開発したデジタル聴診器を用いて心音、肺音、胎児の音を収集し、ネットワークを経由してデータ送信する。送られた音は個々のデータベースに音データとして保存され、過去のデータと比較することで、変化量をグラフで可視化し、病気との関連性の確認、検証を行う。微妙な変化を医師にアラート通知することで素早い対応も可能となる。2021年春ごろの事業化を目指す

【富山高等専門学校+9人の研究者】
高性能な有機半導体を開発 電子タグやマルチセンサーの実用化加速

 富山高等専門学校物質化学工学科の山岸正和講師は、東京大学や筑波大学、北里大学、理化学研究所などの9人の研究者と共同で、特異な構造相転移挙動により、高溶解性、高移動度、環境ストレス耐性を実現した高製造プロセス適性を持つ高性能な有機半導体C10-DNS-VWを開発した。

 有機半導体は、一般的にπ電子系分子からなる。半導体性能を示す移動度や電極からの電荷注入のしやすさを向上するためには、π電子系骨格の拡張と2次元集合体構造の形成がカギを握るといわれ、これまでは、有機溶媒に対する溶解性が低く、適用できる製造プロセスは限られていた。

有機半導体C10–DNS–VWの特徴

 開発したC10-DNS-VWは、電荷輸送には不利だが高溶解性の1次元集合体構造と、電荷輸送に有利だが低溶解性の2次元集合体構造という、2種類の集合体構造を形成し、加熱処理によって1次元から2次元へ、良溶媒が存在すると2次元から1次元へ、それぞれ相転移をすることが明らかとなった。

 製造プロセスに関係なく、C10-DNS-VWは薄膜作製時に高い再現性で2次元構造が得られた。塗布結晶化法を用いてトランジスタを製造したところ、移動度は11cm2/Vsとなり、世界最高レベルを達成したという。基板表面では2次元集合体構造が1次元よりも安定していることも実証した。 

 IoT社会のキーデバイスである安価な電子タグやマルチセンサーの実用化を大幅に加速させることが期待されるという。