「新しい生活様式」がポストコロナの標準に 迫られるビジネスモデルの転換
新型コロナウイルスの感染拡大にともなう緊急事態宣言の解除後も多くの活動が停滞し、先行き不安が広がっている。働き方や行動様式が変わり、新たな価値観が社会に定着していくなかで、中堅中小企業はどのような対応を求められているのか。三菱UFJリサーチ&コンサルティングは「ポストコロナ期における中堅中小企業の経営課題」として、コロナ下の環境変化と中長期的な課題についてまとめた。
新型コロナウイルスの企業経営への影響は、対面・接触・移動の有無によって異なる。インフラ系および娯楽系のリモートサービスでは需要が増加するのに対し、移動を伴う業種や接客型業種では即時的に需要が減少する。それぞれの業種に関わるサプライチェーンも需要が増減するが、両方にかかわるサプライチェーンでは販売チャネルのオンライン・リモート化と対面販売の売り上げ減少が並行して進むため、プラスマイナスゼロに近づくと想定される。
非対面で価値提供・業務運営可能な業種 ⇒ 需要が増加 | |
インフラ系リモートサービス | EC通販、宅配サービス、中食など |
娯楽系リモートサービス | オンラインゲーム、映像配信など |
上記業種に関わるサプライチェーン | テレワーク機器、ロボット、自動化機器など |
外出や身体的接触が必要な業種 ⇒ 需要が減少 | |
移動関連業種 | 交通、航空、旅行など |
接客型業種 | 外食、アパレル、 自動車販売など |
上記業種に関わるサプライチェーン | 自動車関連、輸送、エネルギーなど |
両方にかかわるサプライチェーン ⇒ 売り上げへの影響が拮抗し±ゼロに | |
両方にかかわるサプライチェーン | 食品、日用品、電子機器など |
多くの企業で短期的な業績・資金繰りが悪化
短期的には多くの企業で業績・資金繰りが悪化している。全産業の2019年度(計画)の経常利益は前年比▲7.6%、2020年度 (計画)は▲2.5%となっている。また、2020年3月の資金繰り判断D.I.(「楽である」-「苦しい」の社数構成比%ポイント)では、「苦しい」と回答した社数構成比%ポイントが前年同月比で3ポイント増加している。

【表1】経常利益/資金繰り判断 D.I. 日本銀行「全国企業短期経済観測調査(短観)(2020年3月調査)」をもとに三菱UFJリサーチ&コンサルティングが作成
業種別では、サプライチェーンへの打撃により製造業の落ち込みが大きい。短期的な業績・資金繰りへの影響度が大きい業種として、製造業では自動車を含む輸送用機械、非製造業では対個人サー ビス等があげられる。
表2は、帝国データバンクが今年5月に行った調査をもとに、新型コロナウイルス感染症による業績への影響を業界別にまとめたものである。「マイナスの影響がある」とする企業は、「卸売」「不動産」「運輸・倉庫」「製造」の順で高い割合となっている。

【表2】業績に「マイナスの影響がある」割合(2020年5月調査)(%)帝国データバンク「新型コロナウイルス感染症に対する企業の意識調査(2020年5月)」をもとに三菱UFJリサーチ&コンサルティングが作成
ビジネスモデル・業務スタイルの転換
ポストコロナにおいては、人との接触を減らす「新しい生活様式」が標準となる。その結果、地域外からの需要取り込みがむずかしくなり、オフィスワーカーが持つ需要や物理的な「場」に対する需要は減少する。高密度・高回転率のサービスが提供できなくなり、高頻度の対面コミュニケーション・おもてなしも回避されることから、ビジネスモデルは変化を迫られる。
業務スタイルでも、事務系の在宅ワークやローテーション出勤制が広まり、中規模以上の対面会議、域外(県外/国外)出張、営業訪問はむずかしくなる。ハード面では、高密度の事業所空間の改善、労働集約型産業からの転換が求められる。
新型コロナ対応で働き方は大きく変化しているが、大企業以外ではテレワークはさほど進んでいない。中堅中小企業でテレワークが進まない原因として、IT投資の負担が大きいこと、事務職種が少ないこと、成果の基準が複雑なことがあげられる。働き方の変化は事務系、現業系、サービス系でそれぞれ方向性が異なることを踏まえ、打開策を検討する必要がある。
企業が生き残るためには、短期的には収益改善とコストコントロールによる経営の筋肉質化が課題となる。新型コロナウイルスを経験し従来のニーズが変容していることから、中長期的には、新しい消費者ニーズに対応する新しい付加価値の製品・サービスの創出が鍵となる。5GやAI等のIOT技術への対応、生産性人口減少を見据えた新しい働き方、IT等を活用した業務改善等の経営改善にも取り組まなければならないとしている。