【ハリタ金属・三協マテリアル社】廃車両からの再生アルミを東海道新幹線の新型車両に 高速鉄道事業では世界で初めて

 東海道新幹線の新型車両「N700S」が7月1日、営業運転を開始した。13年ぶりのフルモデルチェンジで、安全対策が強化されたほか、乗り心地も向上させるなど「最新の技術を結集させた」(東海旅客鉄道、以下JR東海)自信作だ。

再生アルミが採用されたN700Sの荷棚(JR東海提供)

 その一つがアルミ車両材の水平リサイクル。引退した新幹線車両の廃アルミ材料が再利用されており、富山県の企業の技術が活かされている。ハリタ金属(本社高岡市、社長張田真氏)、三協立山・三協マテリアル社(同、社長平能正三氏)はJR東海、日本車輛製造、日立製作所との5社共同で「アルミ水平リサイクルシステム」を構築し、高度なリサイクル技術によって回収・再生したアルミ合金がN700Sの荷棚材に採用された。鉄道車両では軽量化の目的でアルミが約50%使用されているが、安全性が重視される高速鉄道事業の車両に水平リサイクル部材が実装されるのは世界で初めてだ。

 アルミは添加する金属を変えることで、様々な種類のアルミ合金となる。新幹線車両に使われるアルミ合金は部位に応じて異なる種類が用いられているが、添加材としてマグネシウムとシリコンを混ぜた合金は「6000系」、亜鉛とマグネシウムを混ぜた合金は「7000系」と呼ばれる。これまでは引退した新幹線車両の廃アルミ材はリサイクルに回され、自動車のエンジンブロック等に使用されるなど、グレードを落とした「カスケードリサイクル」にとどまっていた。異なる種類のアルミ合金が混ざった状態では、新たな鉄道車両用部材と成り得る強度や精度を満たした再生アルミニウムを作ることが困難だったためである。

 ハリタ金属は、レーザー誘起ブレークダウン分光法(LIBS)と呼ばれる成分分析術をリサイクル分野へ応用してLIBSソーティングを開発し、アルミ合金などの金属を成分分析して系統別に選別する技術を確立した(特許取得済み)。同装置で、細かく破砕した金属混合物をコンベヤーに載せて移動させながら連続的にレーザーを照射し、合金の種類を識別・選別する。従来のアルミ合金のリサイクル工程は2度の溶解工程を必要とするのに対して、新システムではLIBSソーティングによる固体での選別後に溶解するため、1度の溶解で済む。

LIBSソーティング

 LIBSソーティングによって選別されたリサイクル地金は、三協マテリアル奈呉工場・新湊東工場で溶解・鋳造され、16インチ押出機で形材として成形された後、JR東海の新型車両「N700S」の荷棚や荷棚下パネルとして生まれ変わった。これにより5社は「新幹線から新幹線へ」「展伸材から展伸材へ」という水平リサイクルシステムを実現した。

 アルミ水平リサイクルシステムはアルミ製造に必要な新地金や膨大なエネルギーを減らせ、大きな省エネ効果が期待できる。さらにその際に排出するCO2削減、天然資源の有効活用にもつながるというメリットがある。JR東海は今後もアルミ水平リサイクルの利用範囲を広げていく方針で、「新たな鉄道車両に資する材料の提供に尽力したい」(ハリタ金属)としている。