【NPO富士山】世界的な観測網の拠点、存続の危機に 日本最高峰富士山の研究施設

富士山特別地域気象観測所
新型コロナウイルスの「3密」回避のため富士山が閉鎖された影響で、地球温暖化をはじめとする大気化学などの研究を行っている「旧富士山測候所」が存続の危機に立たされており、NPO法人「富士山測候所を活用する会」(NPO富士山)は測候所の維持と研究の継続を図るため、発足当初から呼び掛けている寄付に追加し、クラウドファウンディングを開始して広く寄付を募っている。
江戸時代、富士山は測量での目標点であり伊能忠敬の日本地図の礎となった。旧富士山測候所は、山頂での通年観測が始まった1932年に建設され、その後約70年にわたり日本の気象観測における重要拠点だった。第2次世界大戦の終戦直前に陸軍によって送電線が敷設され、64年に富士山レーダーが設置され台風予報を中心に重要な気象データを取得してきた。その価値は気象庁職員として山頂勤務経験がある新田次郎が小説「富士山頂」に描いたことでも知られるが、人工衛星の発達によって2004年に無人化が決まった。
気象予報に関する使命は終えたが、富士山頂は二酸化炭素やオゾン、PM2.5など大気化学の観測にとっては重要な場所で、旧測候所の建物は雨風の影響を受けずに安定した観測を行うには不可欠だった。2005年に測候所の使用継続を目指し大気化学や高所医学などの研究者が主体となってNPO富士山を立ち上げ、国の認可を得て07年から測候所での研究観測を実現させた。以来、公的な補助を受けずに寄付や民間の助成金を頼りに運営されている。
毎年全国から公募、採択された20件以上の研究テーマが行われ、夏には大気化学・物理、宇宙線、雷、高所医学、通信、教育などの分野で400人以上の研究者や学生が山頂へ足を運んでいる。例えば大気中の二酸化炭素濃度、中国などからも偏西風に乗って飛来する水銀などの大気汚染物質、東京電力福島第一原子力発電所事故により飛散した放射性物質の観測など、重要な研究は「富士山高所科学研究会」に属する研究者たちの手によって、現在も富士山頂で続けられ、旧測候所は地球温暖化を捉える最前線基地としても活用されている。
しかし今年は、富士山の閉鎖を受けて有人での観測、研究はすべて中止となり、毎年研究者の利用料収入で運営している測候所にとってこれが断たれたことでNPO富士山の存続が困難になっている。「実業之富山」は2017年夏、現在のウェブ版に移行する前の月刊誌時代に富士山測候所に赴いて標高約3,776mの過酷な環境下で行われている研究の現場を直接取材し、立山や乗鞍岳などを含む日本の山岳地帯での研究活動の現状と意義について2018年1~3月号の誌面で紹介した。
大気化学などの分野は10年、20年と長期的な視野でとらえる研究活動が多く、継続的にデータを蓄積することで世界的な気候変動、火山活動、大気汚染の様子を正確に世界に発信できる。今回のピンチにNPO富士山測候所を活用する会の活動を支援し、持続的な地球環境の保全につなげたい。
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