とやまの土木―過去・現在・未来(34) コロナ禍のもとでの大学教育
5名の教員の担当が済んだところで問題点などの情報を交換したが、「学生の反応をみることができたので、今回のグループ体制は良かったのではないか」、「毎回ワード形式のクイズを提出させていますが、概ね、ワードスキルについては自力で解決してきている学生がほとんどで安心した」、「5回同じ話をしたので、資料の精度向上にも繋がって良かった」など、遠隔授業が決して問題点ばかりではないという評価が出てきた。一方、1年生は同級生との顔合わせができておらず、横のつながりがないことやそれによって学生同士の交流や情報交換ができないことに対する懸念があると感じている。
成績評価をどうするか
評価については、遠隔形式では通常の試験問題を課すということはできない。本学が契約している遠隔授業のためのシステムには、受講生に質問を送りそれに回答してもらうという仕組みがある。これに試験問題を入れてやればいいかというと、そうではない。対面では試験監督員が不正行為をしないように注意すればいいが、遠隔授業では学生同士情報交換をすることが可能なので、通常の試験を行うことができないのである。さまざまな工夫で講義内容に対する理解度を測ることを考えているが、これまたもどかしさを感じざるを得ない。また、資格取得に関連する科目ではレポートによる評価はできないなど、特有の問題点もあるようである。

図1 授業後半の確認問題の例
成績評価の材料には教員それぞれがさまざまに工夫しているところであるが、私の講義での一例を示しておく。図1に講義内容を確認するための質問とそれに対する学生からの回答の一部を示した。この質問は Microsoft Forms という、アンケートやテスト、投票等を表示し結果を集計・管理できるアプリケーションで行っている。講義ではあらかじめパワーポイントや PDF などの資料を配布してあるが、すべてそれで内容を完結させるのではなく、核心部分は板書代わりに書き取りさせるなどしている。講義直後にそれらの内容を確認する問題を課すことにより、学生同士による回答の教えあいなどを防ぎつつ、理解度を確認できるようにしている。
現在、期末試験を従来型の対面試験で行えるかどうかを学部として検討しているところである。行うとしても十分な感染防止対策を講じなければならない。行わない場合はそれ以外の方途でいかに適正に評価を行うか工夫のいるところであり、感染症対策下の遠隔授業ならではの困難さを実感させられている。
実験・実習の問題点
実験、実習科目は座学よりもさらに問題点が多いと思われる。この原稿を書くにあたって、3つの科目の担当者に進め方や問題点などを聞いたところ、以下のような対応であった。
水理実験では河川の流れ・河床変動解析ソフトウェア(iRIC)を用いた数値実験として振り替え、遠隔講義で実施している。課題としては、現場の感覚、実際の流体現象を理解することは困難であり、7月末に県庁土木部と応用生態工学富山のご協力を得て1度だけ実河川の実習を予定している。
環境材料実験では、6月1日からの開講なので、手探りの状況ながら遠隔でやっている。土を対象としたプログラムは原則遠隔で行うが、7月20日以降にはコンクリートを対象とした実験は対面で行いたいと考えている。遠隔で対応する場合、項目の変更や追加、動画の利用等の資料作成面で工夫をしている。
測量実習Iでは、実習の内容を、テキスト資料および事前撮影した動画を視聴してもらうことで、学習・体験してもらっている。測定結果は前年までの結果などをエクセル表で配布することで、レポートの執筆、誤差の確認・考察などを行ってもらっている。オンラインで行っており、質問がある場合は、その場で会話やチャット・メールで質問できる状況である。レポートを全て自分で執筆するため、例年より各自の理解度が高いように見受けられる。測量機材の設置方法・測定原理に関する詳細な動画を作成し、それを利用することで従来の実習以上の学習資料を提供しており、これらは来年度以降の予習・復習資料として利活用することで、さらなる充実がはかれると考えている。
問題点としては、実際に機材に触れることができていないので、その点の理解・経験不足は甚大である。7月以降は6回の実習を予定し、三密を回避するため4つのグループにわけ少人数で対応する。レベル、セオドライト、トータルステーションを重点的に使い、とにかく触って計測してもらうこととしている。少人数で対応することで例年よりも機材にふれる機会を増やし、実習の遅れを挽回する予定である。
これらの報告から、遠隔による実験や実習では決して悪いことばかりではない点もあるが、やはり実際に機械や対象のモノに接することができないことによる弱点は小さくないと考える。
講義や実習の在り方を根本から見直す
講義、実習に共通することだが、とにかくこれまで経験したことのない対応が必要となり、戸惑いはきわめて大きかった。これまでの記述では負の面を多く書いてきたが、それ以外の面にも触れておきたい。
今回の事態では、まず講義や実習自体の見直しをせざるを得なくなり、その内容や構成を根本の部分から検討するという、ある意味で反省を促されることになった。それにより、流れ全体の再構築に及ぶ場合もあり、そこまでいかなくても講義資料や教材の見直しを行うことになった。対面では臨機応変に対応可能なことも遠隔では周到な準備が必要であり、より丁寧な資料へと変わった。
この経験は、対面、遠隔に関わらず今後の授業や実習等の内容、教材や資料の改善につながるものであると感じている。また、講義によってはオンライン化によって、個人ワーク、グループワークともにより集中して取り組む学生が増えたと感じられたという報告があったことも付け加えておきたい。
以上、学生が来られなくなった大学という非常事態において、どのように土木のプログラムを行っているかの状況の一端を報告した。これで十分なのか、いやおそらくは決して十分とは言えないのだろうが、渦中にいる教員は懸命に何とかしようともがいているところである。
そんな教育を受けた学生がこれから何年かの間に社会に巣立っていく。最もインパクトを受けた新入生が卒業するのが3年弱後、影響の程度はそれほどではない(かもしれない)4年生は9か月後に卒業である。社会の方でもこういう状況を理解していただき、卒業生たちを見守り育てていただきたいと願うばかりである。合わせて、本学環境・社会基盤工学科の土木教育にご理解を賜れば幸いである。