とやまの土木―過去・現在・未来(34) コロナ禍のもとでの大学教育

富山県立大学工学部 環境・社会基盤工学科教授 高橋剛一郎

 2020年初頭より新型コロナウイルス感染症が拡大し、富山県内においても3月30日に感染者が確認され、4月に入り感染者数は拡大していった。これに対応し、国、県は警戒情報を出し、またさまざまな要請や制限を打ち出してきた。

 このような情勢の下、富山県立大学でも学生、教職員の各種活動に制限が課されるようになった。これを執筆している時点においても継続しており、大学の本務である教育、研究活動に大きな影響を与えている。今回の報告では、果たしてこのような状況下で学生に対する土木教育(この連載のテーマは土木であるので)はどのように行われているかを6月26日時点の状況に基づいて速報的にお伝えするものである。

 この連載の初回に本学工学部環境・社会基盤工学科の概要を紹介したが、おさらいをしておくと本学科は1962(昭和37)年に創設された富山県立大谷技術短期大学を起源とし、短大時代の衛生工学を基盤学科と農林土木を基盤とする学科が合わさってできた学科である。現在は環境工学講座と社会基盤工学講座の2講座があり、後者に属する教員が土木系の科目を担当している。

 土木系の科目で前期に開講しているものは、講義(座学)では社会基盤工学概論(1年生)、環境材料学(2年)、測量学I(2年)、土質力学(2年)、社会基盤メンテナンス工学(3年)、森林流域管理(3年)、地理情報システム(3年)、環境マネジメント(3年)、実験・実習科目では用測量実習I(2年)水理実験(3年)、環境材料実験(3年)がある。現時点でこれらすべての講義、実習等は学生と教員が向かい合って行うことをしていない。

研究活動は解禁も、講義は引き続き遠隔授業

 3月30日に富山県内で感染者が確認されて以降、学生に対する安全対策の措置が格段に厳しくなった。それ以前は学生に対しては飲食を伴う集まりも含め、課外活動(サークル活動)を自粛するよう要請していたが、4月2日には本学の行事や健康診断、オリエンテーション、講義等についての参加も自粛が要請された。

 4月11日からは原則として学内への立ち入りが禁止され、当初4月8日であった講義の開始は4月22日からとなった。講義は対面ではなく、遠隔授業で行うこととされた。課外活動(サークル)については活動停止要請から禁止へと制限が強化された。5月下旬の政府による新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言の解除後、国や県の指針を踏まえて6月1日より学内活動が緩和された。学生の大学構内への立ち入り禁止は解除された。

 大学院生及び学部4年生の研究活動は解禁され、ようやく卒業研究等の活動が遠隔ではない形で行えるようになったが、講義は引き続き遠隔授業で行われており、これはまだ継続される。ただし、成績評価のための試験はこれを対面で行う可能性が出てきた。また、実験、実習は7月1日以降、細心の注意を払ってこれを行うことが可能となった。

 このように、2週間遅れで講義が開始されたが、いまだに卒業研究や修了研究以外の教育活動はすべてコンピュータの画面とネットワークを通じてしか行われていない。1年生に至っては、入学式が中止され、大学生になったというのに大学構内に入れたのは基本的に4月初めの健康診断時のみである。

 個別の内容に入る前に、本学でどのような遠隔授業を行っているのか、またその環境をのように整えたのかを書いておきたい。遠隔授業では受講者のすべての学生がネットワークで授業を受けられる条件が必要である。まず、本学工学部ではすべての入学生にノートパソコンを持たせることとしており(ちなみに看護学部も同様)、パソコンの保有については問題ないが、ネットワーク環境が整っていない学生への対応がとられた。そのような学生に対しては大学からモバイルルータを貸与した。また、遠隔授業にはMicrosoft Teamsを主として用いており、非常勤講師等一部教員にはZoomの使用も認めている。

 座学の科目では、これまで多くの場合パワーポイントやPDFの資料をプロジェクターで見せて講義を進めることが多かった。もちろん黒板を使用したり、紙の資料を配布することもしばしばである。これらの教材や資料、板書内容はオンライン教材ににすることは難しくなく、遠隔授業においてはこれらを提示しながら説明をすることで伝えるべき内容は学生に届けることができる。そういう意味では対面・座学をオンライン・遠隔に置き換えることはそれほど難しいことではない。

 しかし問題点は少なくない。まず、対面授業であれば当たり前にできる学生の表情、反応を直接見て、どこまで講義を理解してくれているのかを感じることができない。また、きめの細かい指導は十分できないと感じている。そして、評価をどのようにするのがいいのかも問題になってくる。また、講義資料の置き換えは難しくないとしたが、遠隔授業に合わせた組み直しにはかなりの時間や手間が必要となることも実感しており、この負担は決して小さいものではない。

 さらに、多くの受講生がネットワークを通じて繋がっていることが前提であるが、この条件が常に保たれているとは限らない。パソコンが動かなくなったり、ネットワークの接続が不安定になることが起こりうる。これ以外のことも含め、想定通りに行ってくれないことがしばしば起こり、対処に追われることも多かった。

遠隔授業に感じる限界とストレス

 講義の本質にかかわる部分で感じたもどかしさの一例を紹介する。私が担当する森林流域管理では、最初の方で流域についての説明をした後、地形図を配り、それに水系や流域の境界を描き入れさせるという演習的なことをさせていたが、遠隔授業ではこれを行うことはできない。手順を丁寧に説明する資料を作り、これを見せながら解説したが、従来のように誤ったやり方をしている学生を見つけて、直接学生が見ている地図を対象に目の前で解説するということができず、遠隔授業の限界を感じた。

 1年生はいきなり遠隔授業での大学生活となった。学生は全員ノートパソコンを有しているものの、新入生はその使い方のトレーニングを受ける前にいきなり遠隔授業を受けざるを得なかった。そのための対応は大変な面もあったようであるが、何とかそこは乗り越えて授業に対応している。しかし、高校までの授業とは異なる大学の授業に、いきなり遠隔授業で対応するのはかなりのストレスがあるのではないかと想像する。

 上述のように、1年生の土木科目として社会基盤工学概論がある。この科目は、社会基盤工学講座の教員がオムニバス形式でどのようなことを研究しているのかを紹介するとともに、土木とはどういうことか、富山でどういう土木工事が行われてきたのかなどを内容とする科目である。これまでは、各教員が自身の研究分野を講義するときは、1年生全員に対する対面講義で行ってきたが、今回は学生を5つのグループに分けて講義をすることとした。教員の講義回数は5回に増えたが、1回ごとに相手をする学生数は5分の1になった。