3月期決算企業の株主総会 来場自粛要請、リモート、ライブ配信 新型コロナウイルスの影響で大きく様変わり
3月期決算の上場企業の株主総会が6月26日にピークを迎えた。今年は新型コロナウイルス感染症の拡大による決算・監査作業等の遅延に伴い、7月以降にずれこむ企業もあったが、東京証券取引所によると、5月末までに定時株主総会開催予定日を明らかにしていた東証上場会社2,278社の32.8%にあたる約747社が6月26日を開催日としていた。前日の25日には503社(22.1%)が開催し、この2日間に集中した。
近年は総会の日程を前倒しする企業が増え開催のピークは分散する傾向にあったが、今年は最集中日への集中率がここ5年で最も高くなり(グラフ参照)、ピーク日がある週の開催率は約8割と昨年よりも約9ポイント比率が上がった。富山県内でも上場企業26社の77%を占める3月決算会社20社のうち18社が6月最終営業日の前週に開催し、うち10社が6月26日に開催した。最も早く定時株主総会を開催したのは、6月18日開催の日医工(東京1部)だった。

定時株主総会集中率の推移(3月期決算会社) 東京証券取引所調べ
今年の株主総会は新型コロナウイルスの影響で大きく様変わりした。なによりも感染拡大を防ぐため、各社とも招集通知で、事前に書面またはインターネット等で議決権の行使を求め株主に来場の自粛を促したほか、会場では座席を大幅に減らして間隔を広くするなど異例ずくめの対応だった。パワーポイントにより概況説明を簡潔にする企業が増え、株主からの質問を制限して、例年より総会にかかる時間も短縮された。通常ならば事業報告から始まる説明も省略して、すぐに議案の上程に入る最速審議の総会もあった。
後発薬(ゼネリック医薬品)メーカーの大手、日医工は、総会会場をこれまでの滑川工場(滑川市)から富山市の本社ビルに隣接する自社ビルに変更して開いた。会場入り口では株主一人ひとりに対して非接触の体温チェッカーによる検温とアルコール消毒がなされ、マスク着用を求めた。直接出席した株主は用意された36の座席の半分も埋まっておらず、総会議長である社長の演台後ろに控えた取締役、事務局の数が出席株主よりもはるかに多かった。

感染拡大防止の協力を呼びかけるアルビスの招集通知
富山を地盤に石川、福井で食品スーパーマーケット事業を展開するアルビス(射水市)は株主と役員の意見交換の場として例年開催していた総会後の懇談会をとりやめ、お土産も中止した。全国のほとんどの企業でお土産を取りやめており、女性を中心にお土産を楽しみにしてきた株主の出席は大幅に減ったようだ。来年度以降もお土産の配布を行わないとしている企業もある。
今年の総会が例年と明らかに変化したのは、株主総会をインターネットでライブ配信するなど、デジタル技術の取り込みである。例えば、みずほフィナンシャルグループは事前の議決権行使を促した上で、来場しない株主向けにネットで動画を配信する「バーチャル総会」を、ソフトバンクグループは全役員がネットの会議システムを通じた「リモート出席」による株主総会が開かれた。
また、上場する大企業で初めての取り組みとして、伊藤忠商事は株主が来場せず、役員のみの出席で定時株主総会を開催した。株主が総会に出席しなくても経営状況などが十分理解できるよう業績レビューなどをまとめた小冊子を送付して、事前の議決権行使を求めた。

役員のみで株主総会を開催した伊藤忠商事の招集通知
県内企業では、北陸銀行と北海道銀行の持ち株会社、ほくほくフィナンシャルグループ(富山市、東京1部)が隔年ごとに富山市と札幌市のどちらかを総会会場に、ライブ映像による総会開催を続けているが、今年の出席者は富山、札幌の会場を合わせても104人と昨年の半分にも満たなかったとニュースは伝えている。
日医工は2016年に734億円で買収した米国セージェント社とインターネットでつなぎ、同社のCEOがライブ中継で昨年発売した乳がん治療剤のフルベストラントの売り上げが順調に推移している状況を説明した。
経産省はことし2月に公表した「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド」を発表し、現実での株主総会に加えて、インターネットなどで遠隔地から参加・出席できるものを、リアルとバーチャルの「ハイブリッド型」と位置づけた。現実には総会の議長である社長しか画面に映らないとか、発言する株主の表情が分からないという素朴な不満はあり、オンラインでの開催が普及するにはまだ障壁がありそうだ。
インターネットによるテレビ会議システムを活用して、初めての株主総会を開いたのはアルミ製構造部材メーカーのエヌアイシ・オートテック(富山市、ジャスダック)だ。東京本社の会議室と同社の立山工場の会場を回線で結び、西川浩司社長及び社外役員が議事を諮った。密を避けるため出席株主は6人だった。デジタル技術の革新とともに遠隔地から参加・出席できる会合やセミナーが増えているだけに、法整備が進めばインターネットを活用した場面は株主総会に限らず、さらに広がるだろうとの印象を強くした。