【観光白書2020】新型コロナ感染拡大で観光需要は急減、今後の需要喚起に向けた取り組みとは

 観光庁は2020年度版「観光白書」を発表した。2019年の観光の動向に加え、今回は新型コロナウイルス感染拡大の影響と今後の観光振興の方向性について多くの紙面を割いている。

 2019年の訪日外国人旅行者数は過去最高の3,188万人となり、7年連続で過去最高を更新した。訪日外国人旅行者による日本国内における消費額は前年比6.5%増の4兆8,135億円となった。国籍・地域別にみると、中国が1兆7,704億円で総額の36.8%を占め、次いで台湾、韓国、香港、米国の順に多い。

 国内旅行の状況をみると、2019年の日本人1人当たりの国内宿泊観光旅行の回数は1.36回、宿泊数は2.31泊であった。日本人の国内宿泊旅行者数は延べ3億1,162万人、国内日帰り旅行者数は延べ2億7,548万人で、豪雨や地震災害等で落ち込んだ2018年に比べ増加した。

 国内のホテル・旅館等における延べ宿泊者数は前年比1.0%増の5億4,324万人泊で、そのうち外国人延べ宿泊者数は調査開始以降初めて1億人泊を突破した。

 宿泊施設の客室稼働率を都道府県別にみると、東京都(79.7%)、大阪府(79.5%)、福岡県(71.3%)では70%を超え、宿泊施設タイプ別では大阪のリゾートホテルが91.0%の高水準にあった。富山県の客室稼働率は51.5%で、全国平均(62.1%)を下回った。

新型コロナ感染拡大で過去最大の下げ幅

 2020年1月以降、新型コロナウイルス感染拡大にともなう入国制限や海外渡航禁止等により、全世界的に観光需要は大きく減少している。3月の訪日外国人旅行者数は前年同月比93.0%減、4月は99.9%減と、統計開始以降、過去最大の下げ幅となった。

訪日外国人旅行者数 前年同月比の推移

 日本人の国内旅行消費額も、3月は前年同月比53.1%減の7,864億円と、2010年の現行調査開始以降最大の減少率となった。3月の延べ宿泊者数は前年同月比49.6%減の2,361万人泊で、宿泊施設の客室稼働率も統計開始以降最低の31.9%に急減した。

日本人国内旅行消費額 前年同月比の推移

国内観光需要の喚起に向けて

 地域経済にとって観光は重要な役割を果たしている。日本における旅行消費額の8割以上は日本人の国内旅行であり、そのうち6割は地方部で消費されている。訪日外国人の旅行需要が大幅に減少する中、感染症の状況が落ち着き次第、日本人の国内観光需要を喚起させることが当面の観光需要回復のカギになるという。

 人口減少が見込まれる中、日本人の国内旅行を活性化させるためには旅行経験率を引き上げる必要がある。近年の国内宿泊旅行について旅行経験率の推移を見ると、39歳以下の旅行経験率はおおむね上昇傾向にあり、特に19歳以下でその傾向が顕著にみられる。

旅行の阻害要因

 一方、旅行の阻害要因として働き方や休暇に関する要因が上位となり、旅行実施時期にも偏りがみられる。今後の安心・安全な旅行環境を考えると混雑と密集を回避する必要があり、ゴールデンウィークや夏休み等の長期休暇の分散化と、多様な休み方や働き方が可能となる環境づくりが課題となる。

 国内宿泊観光旅行の旅行者数は伸びていないが、消費単価及び消費額は増加傾向にある。観光関係者は旅行の高付加価値化を図り、少人数・滞在型という新しい旅行スタイルの定着に向け取り組んでいくことが重要としている。

訪日リピーターを増やし、地方への誘客を進める

 日本人の国内旅行が回復した後、再び観光を成長軌道に乗せていくために、訪日外国人旅行者の誘客に取り組む必要がある。訪日外国人旅行者による地域活性化の効果を地方部に波及させるには、地方部を訪問する傾向のある東アジアからの訪日リピーターをさらに誘客するとともに、1 回の訪日で長く滞在する傾向にある欧米豪の旅行者を取り込んでいくことが重要と指摘する。

訪問地別訪日外国人旅行者数の推移

 国籍・地域別に訪日リピーターの構成比をみると、台湾(24.6%)、韓国(23.2%)、中国(22.0%)、香港(12.8%)の順に多く、これら4カ国・地域で全体の82.6%を占める。訪日回数が多いほど旅行支出が高く、地方の訪問意向が強いことから、リピーターを増やすことが地方への誘客を進めるためのカギになる。

訪日回数別にみた訪問地:台湾からのリピーターの場合
左から訪問回数1回目、2〜9回目、10回以上

 訪日回数別に訪問地をみると、訪日1回目の旅行者は三大都市圏を中心に訪問し、リピーターほど地方部を訪れる傾向がみられる。台湾と香港は訪日回数が増えるほど訪問する地域に広がりがみられる一方、中国と韓国は訪日回数の増加による広がりがなく、同じ地域を何度も訪れる傾向がみられる。再訪日の意識は旅行中に芽生えることが多く、旅行中に日本の多様な魅力を伝えることが重要だという。

 訪日外国人旅行者の地方への誘客を進めるには、東アジアからのリピーターの取り込みに加え、新たな訪日需要として欧米豪の旅行者に着目している。欧米豪からの外国人旅行者は1人当たり旅行支出が約20万円と他の国・地域より高く、平均泊数も長いという傾向がある。2020年度は、観光分野における新型コロナウイルス感染症対策を進めるとともに、国や地域ごとの感染状況を見極めて受け入れ可能となった所から航空会社に国際線の復活を働きかけ、観光地の魅力を発信するプロモーションを行う方針。