揺らぐサムスン共和国:中国ビジネスの収益悪化に苦しむサムスン電子

国士舘大学経営学部客員教授 石田 賢

 金融監督院電子公示システムによれば、サムスン電子の地域別売上高は2019年の1位が米州市場の43兆7,434億ウォン、2位中国が38兆5,611億ウォン、次いでアジア・アフリカ(32兆9,705億ウォン)、韓国内(20兆3,009億ウォン)、欧州(19兆1,970億ウォン)の順であった。

 地域別売上高の推移をみると、注目されるのは中国市場である。サムスン電子は2018年に中国で最も多い54兆7,796億ウォンの売り上げを達成していたが、昨年の売上高は38兆5,611億ウォンにとどまっており、わずか1年間で16兆ウォン以上減少している。

 1年で中国における売り上げが激減した理由としては、米中貿易摩擦により中国から米国向け輸出が、追加関税などにより抑え込まれたことと、中国政府による産業競争力強化の一環として、特に半導体メーカーなどへの支援により国産化を強化し、外国企業からの購入を抑制する動きが顕著となったこと、などが挙げられる。

 激減する中国での売り上げを、サムスン電子の主な中国法人の財務諸表をみていくことにする。サムスン電子の主要な中国法人は、サムスン半導体・ディスプレイ販売法人(SSS)、サムスン中国販売法人(SCIC)、サムスン中国半導体生産法人(SCS)の主に3法人から構成されている。

 この中ではサムスンの半導体とディスプレイの販売法人(SSS)の売上高が26兆ウォン(2019年実績)と中国全体売り上げの約7割を占めている。過去4年間の売上高は20~30兆ウォン前後、売上高純利益率は1%前後で安定的に推移している。

 これはサムスン電子が生産しているスマートフォンやパソコンなどに使用されている半導体の社内取引と海外の固定客であるアップル、ファーウェイ、ベストバイ(米国)、ベライゾン(米国)、ドイツテレコムなど大口の取引により、数量と販売価格が安定している結果である。

 ところが生活家電を主とするサムスン中国販売法人(SCIC)の売上高推移を過去4年間でみると、激減していることが分かる(図表①)。2016年には中国のスマートフォン市場に食い込んで約9兆ウォンを売り上げていたサムスン電子であったが、今やシェアが1%前後に低迷し、2019年の生活家電全体の売上高は3兆ウォンにとどまっている。2016年を100とすれば昨年は35の水準であり、わずか4年間に約6兆ウォンもの売り上げを失ったことになる。

 2018年に中国・深圳と天津の通信設備および携帯電話工場を閉鎖し、昨年広東省・恵州の携帯電話工場も撤収したことは、売り上げ激減を如実に物語っている。

 最後にサムスン電子にとって半導体事業の重要拠点である中国・西安の業況について、図表②に示したように、サムスン中国半導体法人(SCS)の売上高純利益率は、2018年まで30%前後と高水準を維持してきたものの、2019年に入ると10%未満にまで急減している。

 売り上げ規模は順調に推移しているが、米国企業に使われていた半導体が、貿易摩擦の先鋭化により、販売先を米国から中国国内向けなどにシフトをしたものの、収益面をカバーするには至らなかった。

 具体的にみていくと、米中間で発生した貿易摩擦は、中国企業・華為などを米国市場での活動から直接排除することを意味するが、サムスン電子が華為などの中国企業に販売していたメモリー半導体需要も付随して減少した。

 華為など中国企業に対する米国の制裁は、サムスン電子のメモリー半導体を中国企業が購入して、自社のスマートフォン、タブレット、PCなどスマート機器に搭載し、米国市場で販売していた需要を直撃することになった。

 またサムスン電子は、モバイル用半導体だけでなくサーバー用半導体も、華為をはじめとしてアリババ(浙江省杭州市)、テンセント(広東省深圳市)などが主な顧客であるために、米中貿易摩擦の余波を受け、中国企業の投資委縮により打撃を受けている。

 米中貿易摩擦は、中国の生産拠点を拡大してきたサムスン電子の生産体制の見直しにとどまらず、構築してきたサプライチェーンをも寸断する事態に追い込んでいる。

 サムスン電子にとって中国市場は家電製品から半導体に至るまで、今後も重要であることに変わりはないが、柱となる半導体事業も中国だけでなく米国も自給率の向上に政策を転換していることから、市場獲得競争がさらに激しくなると見込まれ、この結果、中国における売上高をV字回復させる事業は見当たらない。