とやまの土木-過去・現在・未来(31) 身近なコンクリート構造物の研究(その1)
富山県立大学工学部環境・社会基盤工学科教授 伊藤 始
本稿では、著者の専門であるコンクリートにまつわる話を述べていきたい。前回の寄稿がちょうど1年前の4月でした。そこでは、本学の新校舎の4階部分にコンクリートが打ち込まれていることを記述しましたが、今は完成した新校舎の6階で太閤山ランド方面を眺めながら原稿を作成しています。
また、前回の原稿では、新校舎について「来年春には新たな学び舎となり、若者たちによる賑わいが創り出されることを期待させる」と書きましたが、昨今の状況では実現するには時間がかかりそうです。
さて、今回と次回で著者が実施しているコンクリート構造物に関する研究を紹介します。今回は電柱とトンネルを取り上げ、次回は橋梁について取り上げます。これらは、富山県内のいたるところに建設されていますので、この機会にコンクリート構造物を身近に感じていただき、その建設や維持管理の技術を地道な研究が支えていること、富山県立大学から発信していることを知っていただければ幸いに思います。
電柱のひび割れ幅とたわみに関する研究
はじめに、配電線や通信線を支持するための電柱の維持管理に関する研究を紹介します。電柱は遠心力による締固めを行うため、専門用語で遠心成形コンクリート柱(図-1)と呼ばれます。その数量は電力10社の合計で2,000万本あまりにものぼり、地中化の推進による減少があるものの、新規供給などによってわずかに増加傾向にあります。遠心成形コンクリートは、遠心力を用いて締め固めるため、振動成形で製造される通常の現場打ちコンクリートに比べ、骨材が外側に充填され、脱水や脱気の効果により表面が緻密かつ高強度になることが知られています。

図-1 電柱の実験状況
遠心成形コンクリート柱は、配電線や通信線の力(荷重)の偏りがある場合に曲げようとする力を持続的に受けます。さらに、台風などの自然災害により過酷な荷重を受けることで、ひび割れ(亀裂)や過大な力が作用する可能性があります。そのため、電柱を管理する管理者は、各施設条件に応じて3~6年の周期で定期的な巡視や点検を行っています。巡視では、主に目視によりひび割れや剥離、湾曲(たわみ、変形)の有無などを確認します。劣化が確認された場合には点検が行われ、ひび割れ等が詳細に観測され、記録されます。
遠心成形コンクリート柱は、遠心成形のためにコンクリートの強さが大きく、時間的な変形が小さい。これらに加えて、円筒形状の断面であること、高さ方向に直径が変わること、圧縮力を与えて製造されるプレストレス構造であることなどの特徴から、ひび割れ挙動やたわみ挙動が複雑です。著者らは、将来のひび割れ幅やたわみを推定する手法を確立し、図-2のように次回の点検のタイミングを予測することで、維持管理の効率化を目標としました。

図-2 点検の効率化のイメージ
研究では、実際の電柱に対して3年以上にわたる持続載荷実験を実施し、ひび割れ幅やたわみを計測しました。3年間のひび割れ幅の進展の一例を図-3に示します。

図-3 ひび割れ幅の進展
ひび割れ幅の増加傾向は、経過日数1,000日程度まで明確であり、地面(地際部)からの高さ1,453mmを除く3点のひび割れ幅は、日数0日付近で0.05~0.10mm程度であったのに対して、800日を超えるあたりで0.15~0.24mmと増加しました。

図-4 たわみ(変形)の進展
3年間のたわみ(変形)の進展の一例として、高さ方向の実験と解析のたわみ分布を示します。プロットで表した実験のたわみは、日数の経過とともに大きくなり、増加量は高さが大きくなるごとに大きくなりました。実線と破線で表した計算のたわみについて、実験と計算のたわみ形状は、いずれも類似しました。また、3年目のたわみの計算値は、実験値に比べて小さくなり、地際部からの高さ2.05mで27mm、頂部で65mmの差異となりました。これまでに、推定手法に引張強度と乾燥収縮を考慮する改善を行い、精度向上を図りました。
今後の活用方法として、推定値が管理値に到達するまでの期間から、次回の点検年次を設定することが可能であります。また、点検時のたわみの計測値から間接的にひび割れ幅や柱の健全度を推測する考えも示しています。
トンネル覆工コンクリートの品質向上に関する研究
東海北陸自動車道などでトンネルを通るとき、トンネル内面が滑らかな曲線のコンクリートで造られていることに気づくと思います。NATM工法などを用いる山岳部のトンネルでは、岩盤が掘削され、岩盤が崩れないようにコンクリートが吹き付けられますが、その段階では内面に凹凸のある状態です。そのあと、力学的性能を高めるとともに内面を滑らかな曲線にするために、トンネル内にセントルと呼ばれる鋼製型枠を設置して、岩盤とセントルの間に、流動性のあるコンクリートを流し込むことで、覆工コンクリートを完成させます。

図-5 コンクリートの練混ぜ状況
覆工コンクリートの施工において、セントルの脱型と移動は、強度が所定の値に達していることを確認したあとに、打ち込み後24時間に満たない時間で行われることが多くあります。一方、コンクリートには温度が低いときに強度の発現が遅くなる性質があります。そのため、北海道や東北地方などで冬期に施工されるコンクリートにおいて、対策を施さない場合には24時間未満の早期に十分な強度が発現しないことから脱型時期が遅れ、工期の遅延が生じます。脱型時期を短縮する対策として、セメントの化学反応で生じる水和発熱量が大きく強度発現が早い早強ポルトランドセメントの使用やトンネル内の保温が実施されます。

図-6 コンクリート供試体への給熱状況
研究では電熱線を用いた発熱体でセントルを加温することを提案し、そのときのコンクリート内部への熱の広がりとコンクリート表面の品質の変化を捉えることを研究全体の目標としました。研究では、要素試験として図-5のような覆工コンクリートの配合を用いて供試体を作製しました。その供試体を図-6のように発熱体の有無や周囲温度を変化させて養生し、養生中に水和発熱温度を計測しました。養生後に圧縮強度試験、透水試験、および吸水試験を実施し、力学性能と表面の緻密性や耐久性を比較しました。
トンネル覆工コンクリートに関する研究結果の概要
要素試験の結果として、発熱体を用いたコンクリートの透水量や吸水量が小さくなることを明らかにしました。また、熱伝導解析を用いて水和発熱時の温度分布を模擬できることを確認しました。

図-7 圧縮強度と給熱時間の関係
加えて、圧縮強度は、給熱時間との関係が図-7のようになりました。セントルを脱型するときに、圧縮強度が2.0~3.0 N/mm²程度に達すれば安全であると判断している場合が多い。この値と比較すると、材齢1日において2 N/mm²を超えているのは、12時間以上給熱した場合でした。一方、給熱時間が6時間のときに材齢2日で2 N/mm²を超え、給熱時間が3時間以下のときに材齢3日で超えました。
要素試験を通して、発熱体による力学性能と緻密性の向上を確認できました。この研究を進めることで、今後建設されるトンネル覆工コンクリートの品質向上が期待されます。
参考文献
1) 伊藤始、西田悠介、竹中寛、安田正雪:遠心成形したコンクリートの点検の効率化に向けたひび割れ幅の進展予測、コンクリート工学、Vol.56、No.12、pp.1001-1009、2018
2) 佐藤広樹、伊藤始、赤羽一大、横山豊也:材齢初期の給熱時間が低温環境で養生したコンクリートの初期圧縮強度に与える影響、土木学会第75回年次学術講演会講演概要集、2020(掲載前)
いとう・はじめ 愛知県名古屋市出身。名古屋大学大学院修了。現在、富山県立大学工学部環境・社会基盤工学科教授。コンクリート工学や構造工学を専門とする。