揺らぐサムスン共和国:5G市場で激突するサムスン電子vs華為

国士舘大学経営学部客員教授 石田 賢

 今、5G通信設備とそのスマートフォン市場の先陣争いが過熱している。中でも通信設備から5Gスマートフォン市場を拡大しようとしている華為と、半導体の開発力から5Gスマートフォン市場を伸ばそうとしているサムスン電子と、いずれに軍配が上がるかに関心が集まっている。

 スマートフォン市場に占める5Gスマートフォンの割合は、現状ではまだ1%程度に過ぎないが、将来性という意味で企業の期待は大きい。5Gスマートフォンは、AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)などの技術との融合を通じて、多様な製品を消費者に提供できると考えられている。しかも、新型コロナウィルスの影響で、スマートフォン市場が委縮する恐れとの見通しの中で、5Gスマートフォンだけは、唯一成長が期待されていることも、先陣争いの主因となっている。

 米国トランプ政権は、2018年に成立した国防権限法(NDAA)に基づき、1年後の2019年8月から政府機関が華為技術(ファーウェイ)、中興通訊(ZTE)、海康威視(ハイクビジョン)、能達通信(ハイテラ)、大華科技等中国公司(ダーファ)の中国企業5社から、通信機器・ビデオ監視機器・その他サービスを直接購入することを禁止する暫定規則を発表した。

 これに対して華為は、2018年末までに米国で取得した1万1,152件の特許を含む8万7,805件特許を出願するなど独自の技術開発に注力してきたことを明らかにするとともに、2015年以降、他社の特許を合法的に使うために、60億ドル以上のロイヤリティーを支払い、このうち約80%が米国企業に支払われたものと主張している。

 米国と一線を画しているEU(ヨーロッパ連合)は、基本的に軍事・原子力施設など主なネットワーク部門では排除するものの、自由に企業を選定して契約することができるとしている。華為に対する立場は、欧米間に亀裂が走っている。

 華為は欧州市場への浸透を強めており、5G商用化契約を91件締結した。華為と契約した主な通信会社は、ボーダフォン・グループ(イギリス:世界最大の多国籍携帯電話事業会社)、テレフォニカ(スペイン:テレフォニカのドイツ部門)、テレノール(ノルウェー:国営通信会社)、テレコム・イタリア・モービレ(イタリア:略称TIM)などである。

 激戦の中でサムスン電子は、韓国内の移動通信3社以外では、AT&T(米国最大手の電話会社)、ベライゾン・コミュニケーションズ(米国)、USセルラー(米国)、KDDI(日本)などにとどまっており、5G通信設備の供給契約件数は少ないだけでなく、地域も限定的である。

 華為を排除しようとしている米国市場で、サムスン電子は基本的に有利な立場にあるものの、米国政府が肩入れすると憶測されているエリクソンやノキアとの競争も避けられない。勝ち残るためにサムスン電子は、ノキアとエリクソンよりも5G技術において優位性を明確にすることが必須条件となっている。

 また日本はアップルの寡占市場であったが、5Gアイフォンの発売が出遅れている間隙を縫って、東京五輪を契機に、サムスン電子、LG電子、そして中国企業の華為・ZTE・OPPOなどが、日本の5Gスマートフォン市場に先行できると期待していたが、オリンピック延期の決定で出鼻をくじかれた格好だ。

 市場調査会社Dell’Oroによれば、サムスン電子の昨年の5G通信設備の市場占有率は上位5社に入れず、苦戦が続いている(図表①)。反対に華為は、米国の制裁を受けながらも、5G通信設備市場で善戦しているのが際立つ。

図表① 5G通信設備市場の占有率の推移
資料 : Dell’Oro(2020.3)

 さらに通信設備にとどまらずこの業界は複雑である。米国が華為に対してさらなる制裁強化に乗り出して、半導体の調達先にまで制裁が及ぶ場合、華為は、サムスン電子とSKハイニックスが生産したDRAM、NANDフラッシュなどのメモリー半導体などを購入(昨年は208億ドル)して、自社製品に搭載していることから、サムスン電子とSKハイニックスへの打撃も避けられない(図表②)。

図表② 2019年半導体購入額トップ10社(単位:億ドル)
資料 : ガートナー(2020.3)

 今後、米中の確執がどのように展開していくのか、米国主導で5Gのグローバルスタンダードを果たして取ることができるのか、華為への制裁が広範囲に及ぶならば、半導体を供給している韓国企業もその影響は避けられないなど、サムスン電子は難しく繊細なかじ取りを強いられている。