新型コロナウイルス感染症の影響—2020年版中小企業白書より

 「2020年版中小企業白書・小規模企業白書」では、今年4月1日時点における新型コロナウイルス感染症の影響について各種の指標とともに掲載している。

 全国1,050カ所に設けられた「新型コロナウイルスに関する経営相談窓口」には3月末までに30万件近い相談が寄せられているが、ほぼ全て資金繰りに関するものだという。相談窓口の利用件数では、飲食業(28.5%)が最も多く、製造業(21.5%)、卸売業(17.9%)、小売業(17.8%)と続く。

表1 相談窓口の利用件数に占める各業種の割合

 操業停止や休業により売り上げが計上できない場合、給与等の固定費は現預金等の手元資産から拠出せざるを得ない。表2は流動性の高い手元資産が年間で生じる固定費の何年分に相当するかを見たものであるが、宿泊業や飲食サービス業では今後半年間で資金繰り難が深刻化する可能性を示している。

表2 業種別・規模別に見た固定費と流動性の高い手元資産の比率(2018年)
資料:財務省「法人企業統計調査年報」

 今回の新型コロナウイルス感染症は中国から始まっており、今年2月の中国からの輸入額は前年同期比で47.1%減と大きく落ち込んだ。中小企業の海外子会社数をみると中国が32.2%を占め、大企業よりも中国の比率が高い。中国の生産や貿易が減少していることは、関係している中小企業にも多大な影響を及ぼしている。

表3 日本企業の海外子会社数
資料:経済産業省「平成30年海外事業活動基本調査」再編加工

 感染症の影響により、インバウンドをはじめとする国内消費は大幅に減少。小売業では一部で買いだめが生じているものの、総じて業況は悪化している。すでに、企業の売り上げの減少、イベント・展示会の延期・中止といった影響が顕在化している。

 感染症を含むリスクの影響を可能な限り小さくするためには事前の備えが重要であるが、大企業に比べて中小企業のBCP策定は進んでいない。中小企業が想定するリスクでは、自然災害(69.9%)や設備の故障(41.9%)などが上位を占め、今回のような感染症(インフルエンザ、新型ウイルス、SARSなど)は23.2%にとどまる。

表4 事業の継続が困難になると想定しているリスク(中小企業)
資料:帝国データバンク「事業継続計画(BCP)に対する企業の意識調査」(2019年5月)

 テレワークの導入目的についても、「定型的業務の効率性(生産性)の向上」や「勤務者の移動時間の短縮」「通勤困難者への対応」などが重視され、「非常時(地震、新型インフルエンザ等)の事業継続に備えて」は15.1%となっている。

表5 テレワークの導入目的
資料:総務省「平成30年通信利用動向調査」

 総務省の調査(2018年)によると、テレワークを導入しているのは全体の19.0%であるが、資本金1億円未満では「導入している」「今後導入予定がある」のいずれも平均より低く、8割前後が「導入していないし,具体的な導入予定もない」と回答している。今回の感染症を機に、中小企業でもテレワークの導入が進むことが期待されている。