揺らぐサムスン共和国:ポスト半導体の不在に苦しむサムスン電子
国士舘大学経営学部客員教授 石田 賢
2020年1月末、サムスン電子が暫定集計した連結基準における昨年の売上高は230兆4009億ウォン、営業利益は27兆7685億ウォンであった。売上高は前年比マイナス5.5%、営業利益に至ってはマイナス51.0%と大幅な減少となった。
サムスン電子はDS部門(半導体、ディスプレイなど)、IM部門(スマートフォンなど)、CE部門(TV、冷蔵庫など生活家電)の3部門から構成されている。3部門の中で売上高、営業利益を大きく落としているのは、中低価格帯のスマートフォンが中国企業に追い上げられ、世界で市場を失いつつあるIM部門、そしてメモリー系のDRAM、NANDフラッシュの供給過剰から大幅な価格下落に直面し、利益をピーク時より半分以下に落とした半導体を核とするDS部門の2部門である。生活家電のCE部門は売上高営業利益率でみると、低位安定で推移しており、大きな落ち込みはなかった。
ピーク時には全社営業利益の8割近くを叩き出していた半導体事業は、好循環がすでに過去となった。今年第1四半期にはメモリー価格に回復の兆しが現れているものの(図表①)、今後の供給に不安を抱いた需要家が在庫の積み増しに走ったことが、下支えとなったに過ぎない。

図表① DRAM工場出荷価格の推移 (単位:ドル/個)
世界的な景気停滞に加えて新型コロナウイルス感染症が追い打ちをかけて、最大の需要先である中国市場が低迷し、一方で中国企業の半導体工場の稼働により供給過剰に歯止めがかからないことから、反騰する力は弱い。
半導体が使われるスマートフォン、PC、サーバーなどを作るOEM(委託者のブランドで製品を生産する企業)やODM(委託者のブランドで製品を設計・生産する企業)などの工場が中国に集中している。これら中国工場が低稼働や閉鎖に追い込まれる事態となれば、半導体需要はさらに減少する。
一方で最近の中国企業の動きをみると、中国・長鑫存儲(チャンシン・メモリー・テクノロジー/本社安徽省合肥市)は、DRAMを生産・販売すると発表し、さらに長江存儲科技(長江メモリー・テクノロジーズ/本社湖北省武漢市)も、重慶市にDRAM量産工場の建設を急いでいる。
期待寄せるシステム半導体事業
最悪のシナリオを考えれば、年初に回復の兆しを見せていたDRAMやNANDフラッシュなどのメモリー半導体価格が年央から再び低迷し、サムスン電子が描いていた業績回復の構図は根底から崩れることもあり得る(図表②)。

図表② サムスン電子半導体部門の売上高・営業利益(単位:ウォン)
サムスン電子が最も期待しているのは、全社の収益を牽引する半導体の復活である。DS部門では、メモリー半導体に代わりfoundry(半導体委託生産)事業を核に据えるとともに、システム半導体事業の飛躍に、今年のサムスン電子は期待を寄せている。
foundry事業では、業績浮揚にはDS部門が力を入れている5ナノメートル(nm・10億分の1m)の半導体量産に力を入れているものの、台湾のTSMC(台湾積体電路製造)がこの4月から量産体制に入ると言われ、この開発競争においても後塵を拝している。
これと並行して、サムスン電子がTSMCに対抗する手段として考えられている切り札は、10兆円を超える保有資金を活用して、電装企業ハーマンの買収金額(80億ドル)を上回る大手システム半導体企業の買収である。
昨年末から、ソリッド・ステート・ドライブ(SSD)やソリッド・ステート・ストレージ(SSS)向け NANDフラッシュコントローラを開発している米国のシリコン・モーション・テクノロジー・コーポレーション(1995年設立、2019年売上高45億6300万ドル、本社カリフォルニア州サンノゼ)を買収するのではないか、との話が持ち上がっている。
図表② サムスン電子半導体部門の売上高・営業利益(単位:ウォン)資料 : 金融監督院電子公示システム
サムスン電子はメモリー半導体が収益源としての限界に突き当たったことから、中国・西安の3D NANDフラッシュ工場(2020年3月本格稼働)を除けば、華城(ファソン)の極紫外線(EUV: Extreme Ultra Violet)ライン、平沢(ピョンテク)のメモリー2工場などへの大型半導体投資を今年に先送りした。
システム半導体を育成するためには、大手企業の買収で売上高を嵩上げするにせよ、サムスン電子がTSMCに短期間で肉薄する手段としては、技術面での優位性をどこまで主張できるかにかかっている。そのカギを握るのが、2022年の量産化を目標としている3ナノ級の超微細開発競争であり、どちらの企業に軍配が上がるかが、foundry事業の主導権争は最終章を迎えている。