【最近の講演会より】激動の米中、日米、日韓にどう立ち向かうか
ファースト・バンク青雲会講演会 2020年2月18日 講師:中部大学特任教授 細川昌彦氏
三重苦の習近平体制
コロナウイルスの感染源とされる武漢は、東西南北の交通の要衝であり、鉄鋼や自動車、半導体など様々な産業が集積し、中国の将来を支える地域とみられていた。中国経済は現在、三重苦にある。2009年のリーマンショックの後遺症による民営企業や銀行の債務が積み上がっていて、そこに米中問題が持ち上がり、コロナウイルスが発生し、まさに習近平体制の正念場である。
特に中国は年間2,400万台の自動車が売れる世界最大の市場で、生産地であり消費地でもある。日本の三大メーカーのトヨタ、ホンダ、日産いずれも進出しており、武漢にはホンダと日産が工場を持っている。自動車産業は完成車メーカーを頂点に多数の部品メーカーがつながるピラミッド構造になっていて、日系企業はピラミッドごと武漢へ進出している。今では日系の部品メーカーだけでなく中国の部品メーカーも現地で育て、低コストの部品を中国から日本に輸入している場合もある。
つまり在庫をほとんど持たずに中国からの部品供給で低コスト化を図っていた自動車メーカーにとってコロナウイルス問題は大打撃になった。さらにサスペンションやブレーキなど安全に関わる部品の代替供給元を見つけるには認証を取得している部品メーカーを新たに探さなければいけない。効率とコストを重視するのか、あるいはリスク分散を図るのか。経営はそのバランスが大切である。
今回のコロナウイルスの問題は観光産業以外にも対中国の輸出入に大きな影響が出ており、米中問題と日本企業のあり方を考えていく例になるだろう。
先日、武漢からチャーター機で帰国した日本人の半数は自動車産業に関わる人々で、残り半数の多くは半導体産業の人々だった。中国は今、国内に半導体製造の拠点づくりを着々と進めている。武漢にも大々的に半導体の工場をつくっていて、その建設に実は日本の半導体製造装置メーカーが協力していることが明らかになったのである。
中国の現在の半導体自給率は約4割だが、2015年に発表された「中国製造2025」では、これを25年までに7割にまで伸ばす計画を立てている。米国に依存しない体制づくりが目標であり、米中関係の主戦場は半導体分野になっていく。
米中関係は表面的には分かりやすい問題である。トランプ大統領も習近平主席も自国の国内経済だけを見ているからだ。トランプ大統領の頭にあるのは大統領選挙のことだけで、口先で市場に良いサインを送り株価を上げている。米中間で目に見えて起こっているのは単なる関税合戦で、株価が上下するだけで中身はない。
その背後にあるのはもっと深く長く続く問題だ。国同士の貿易交渉は政府間で行われると思われるだろうが、米国との交渉においては政府だけを相手にしていては成り立たない。交渉の水面下では、議会で通商政策を担う民主党、共和党双方の議員、シンクタンク、諜報機関(CIA)、捜査機関(FBI)の関係者などワシントンにうごめく人々が、いわば「オールワシントン」としてつながって政策をコントロールしている。
従来の米国ではオールワシントンと大統領の考えに大きな差はなかった。しかしトランプ大統領とオールワシントンの考え方は大きく異なる。ここをおさえなければ、問題の根本を見失う。トランプ大統領とオールワシントンともに中国に対して強硬姿勢だといっても、トランプ大統領は99%選挙のことしか考えておらず、良い格好をするために関税合戦をするだけだ。
米国の通奏低音の対中強硬政策はつづく
本質はオールワシントンにある。彼らは技術の覇権争いで手をこまねいていれば、中国が米国を追い越して、安全保障の根幹を揺るがしかねないという中長期的な警戒感を持っている。
トランプ大統領はファーウェイを取引材料としか捉えていないが、ワシントンはファーウェイこそが危ないと思っている。だから国防権限法には、ファーウェイへの制裁を緩和するには米国の安全保障上問題がないと議会に対して証明しなければならないと書かれている。トランプ大統領に勝手なことはさせないのである。音楽に例えるとトランプ大統領は主旋律、ワシントンは通奏低音である。主旋律が小休止したとしても、通奏低音の対中強硬政策はずっと変わらない。