とやまの土木─ 過去・現在・未来(26) 情報化の進展と土木
富山県立大学工学部環境・社会基盤工学科講師 立花潤三
1. 情報化の情勢
内閣府は第5期科学技術基本計画において、わが国が目指すべき未来社会の姿としてSociety 5.0を提唱しています(図-1)。Society 5.0とはIoT(Internet of Things)でサイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させ、さまざまな知識や情報が共有され、今までにない新たな価値を生み出していく社会のことを指しています。この社会では、例えばAI(Artificial Intelligence)、ドローンをはじめとしたロボット、自動走行車などの活用が期待されています。

図-1 Society 5.0 の概要図(内閣府)
これと似たような言葉で、5Gという言葉があります。これは、第5世代移動通信システムのことで、これまでの情報通信と比較して①高速大容量、②高信頼・低遅延通信、③多数同時接続を実現するシステムを意味しています。要するに、これまでのものより、より良くなった情報通信システムという意味です。この5Gの導入によりAI、遠隔医療、ドローン制御、自動走行などがよりスムーズに行えるようになります。つまりSocety5.0を支える情報基盤の新世代版が5Gということです。
それでは先ほどのIoT(Internet of Things)とはなんのことでしょう? 直訳すれば「モノのインターネット」となります。よくわかりません。わかりやすく解釈すると、インターネットの先にモノが繋がっている、となります。例えば、外出中にスマートフォンを使用して自宅のビデオ録画を行ったり、キッチンのガスレンジのスイッチのON/OFFを確認・操作できるなど、インターネットとモノが繋がっていることを指します。
もうすこし具体的な事例を紹介します。図-2はごみ収集システムにIoTを活用した事例の模式図です。家庭ごみの集積所(大型ゴミ箱)にはセンサーがついており、どの程度ごみが溜まってきたかをモニタリングできます。つまりインターネットの先に集積所というモノが繋がっていて、そのリアルタイムデータを集めることができるようになっています。この集積所の溜まり具合から、行くべき箇所と行かなくてもよい箇所を選別し、効率的な収集運搬ルートを決定します。このことにより、ごみ収集運搬の効率化が図れます。実際にこのシステムを運用しているスペインのサンタンデール市では、収集運搬費用の15%削減に成功しています。

図-2 IoTを活用したゴミ収集システム(https://www.enevo.co.jp/)

図-3 機械学習、ニューラルネットワーク、ディープラーニングの関係図
AIは、人工知能と訳されることが一般的ですが、ゼロからロボットが思考するわけではありません。現在のAIでは“学習”が重要なファクターになっています。図-3にAIにおける学習の関係図を示します。機械学習とは、大量のデータ(例えば人の顔の画像)を学習させることで、このデータの蓄積から人の認証ができるシステムを構築します。
ニューラルネットワークとは、この機械学習の代表的なものの一つで、学習によって人間の脳内にある神経回路網を数式的なモデルで構築するものです。そして、ディープラーニングはニューラルネットワークの神経回路を数式化できないような複雑な場合に用いられる学習方法でニューラルネットワークの一つと見なすことができます。
このような機械学習は、学習させるデータ数が多ければ多いほどその真価を発揮します。したがって、AIの活用においては、いかに必要なデータを大量に集めるかが重要となり、5Gがもたらす超ビッグデータはAIの活躍の場を更に大きく広げるものと期待されているのです。
そしてそれらのデータの多くは、IoTを構成しており、そのデータ量は膨大かつ動的です。このような大量のリアルタイムデータを収納、整理、管理、活用を行うのは、容易にできるものではなく、このパッケージとして提供されるのがIoTプラットフォームです。IoTプラットフォームの役割をまとめると①データを収集する役割、②大量のデータを蓄積する貯蔵庫の役割、③データを組み合わせて新たなサービスを作り出す役割の3つとなります。
現在IoTの市場規模は3兆ドル、その成長率は37%もあると言われており、マイクロソフト、IBM、シーメンス、ファーウェイ、アリババ、ファナック、三菱電機、NECなど世界中の企業がこのIoTプラットフォームの開発競争、覇権争いを繰り広げています。
2. 情報化と土木
2.1 i-Construction
i-Constructionとは、国土交通省が掲げる20個の生産性革命プロジェクトのうちの一つで、測量から設計、施工、検査、維持管理に至る全ての事業プロセスでICTを導入することにより、建設生産システム全体の生産性向上を目指す取組みです。

図-4 i-Constructionの概要図(国土交通省)
i-Construction の取り組みの中で期待されているICT建機があります。具体例としては、道路などを踏み固める振動ローラーやトンネル掘削用シールド機など熟練技術が必要な作業にAIを活用する取り組みなどがあります。熟練技術者が行った運転データをディープラーニングなどにより学習させることで、運転用AIを構築し、作業・労働力の効率化を図る取り組みです。
また、インフラの点検業務にもAIの技術が活用されつつあります。NTTドコモと京都大学は、車両通過時に発生する橋のたわみや揺れを同時に動画で撮影し、AIで橋の劣化を推定するシステムを開発し、富山市において実証実験を行っています。同様の研究は土木研究所や金沢大学をはじめ多くの企業、研究機関でも行われています。

図-5 橋梁劣化推定AIの概要(NTTドコモ)
2.2 富山での取り組み
富山市では現在、情報通信技術を活用して都市機能やサービスを効率化・高度化するスマートシティ構想を急速に進めています。図-6にあるように、富山市民居住区域の98%を網羅する無線通信網を構築しています。これにより、富山市内にセンサーを配置さえすれば、人の動き、車の動き、河川、土壌、道路、橋梁様々な態様がリアルタイムでデータを収集しつづけることが可能になっています。

図-6 富山市スマートシティ推進基盤整備の概要(富山市)
併せて富山市では、膨大なIoTデータを収集し、ストックして、サービス化する基盤ソフトウェアであるIoTプラットフォームを先進的に導入しています。この整備により、リアルタイムに変動する様々な情報を市内全域のセンサーネットワーク網から集め、その情報を組み合わせることにより新しいサービスを創出する準備が整っています。
そして、この環境を活用するために2019年に民間事業者などを対象とした実証実験の公募を行いました。現在第一期目の実証実験(23件)が各地で行われています。その取り組みの中から土木分野での取り組み事例をいくつか紹介します。
・農業用水の水位管理(富山県土地改良事業団体連合会)
富山市赤田地内の一級河川土川から取水する広田用水の系統において、上流(土川頭首工)、下流(婆々越水門)に圧力式水位センサーを設置して、その情報を富山市スマートシティ推進基盤(LoRa)を通じて、遠隔の土地改良区事務所で水門を管理しようという取り組みで、土地改良施設の維持管理に係る合理化・省力化を検証しています。
・融雪装置(散水ポンプ盤)の管理(株式会社柿本商会)
富山市内一円に点在する道路融雪装置(散水ポンプ盤)に信号変換装置を設置し、稼働状況(運転/停止や設備の故障発生/復旧状況等)を遠隔地へ送信することで、遠隔監視を行うことによる維持管理の効率化を検討しています。
5G、IoT、AI、Society5.0といった目新しい言葉とともに社会システムの変革は既に始まっています。そしてこれからも新しいアイディアがどんどん生まれてくることが予想されます。いち早くIoTを活用した社会への対応を進めている富山において、県、市、企業、大学が協働で取り組むことにより、富山発の新しい価値、新しい土木の形の創出が可能であると考えます。
【参考文献】
・内閣府,Society5.0,https://www8.cao.go.jp/cstp/society5_0/index.html.(2020.2最終閲覧).
・日本電気株式会社,データ利活⽤型スマートシティを実現するIoTプラットフォーム FIWAREについて,2017.
・国土交通省,国土交通白書,2019.
http://www.kyoto-.ac.jp/ja/research/research_results/2019/documents/191205_1/01.pdf(最終閲覧2020.2)
・富山市,富山市スマートシティ推進基盤を利活用した実証実験公募採択事業計画書一覧https://www.city.toyama.toyama.jp/data/open/cnt/3/19997/1/planlist.pdf?20190918150207(最終閲覧2020.2)
たちばなじゅんぞう 宮城県出身。立命館大学総合理工学専攻博士後期課程修了、豊橋技術科学大学COE研究員、大阪府立高等専門学校講師、鳥取県産業技術センター研究員、東京大学生産技術研究所研究員を経て富山県立大学工学部環境・社会基盤工学科講師(現職)。環境システム、エネルギーシステム、地域計画などの諸問題への数理計画手法の適用などを専門としている。