【吉田鉄郎の近代 モダニズムと伝統の架け橋展】日本の近代建築を牽引した建築家の思想と手法を紹介 馬場家邸宅など富山ゆかりの建築も多数
福野町(現・南砺市)出身の建築家・吉田鉄郎の建築資料を通してその思想と手法を紹介する「吉田鉄郎の近代 モダニズムと伝統の架け橋」展が、東京・湯島の文化庁国立近現代建築資料館で開催されている。吉田が自宅に保管していた2,000枚もの建築図面が同館に寄贈され、生誕125周年を記念して企画されたもので、文化庁主催により2月11日まで開かれている。

吉田鉄郎(1894〜1956)
吉田は1894年(明治27年)、郵便局長を務める五島寛平の三男として生まれ、旧制高岡中学、旧制四高を経て、東京帝国大学建築学科で学んだ。卒業後、逓信省経理局営繕課に入省。東京中央郵便局や大阪中央郵便局など日本近代建築の名作を残した「逓信省の建築家」として知られ、1920年代から1950年代にかけて多くのモダニズム建築を設計した。
当時は、日本に限らず世界中で、いかに「近代」を空間的・建築的に表現するかが問われた時代だったが、吉田は、単にヨーロッパ発のモダニズムを模倣したり、それを土着の伝統と折衷したりするのではなく、モダニズムと伝統との間に橋を架け渡すことを目指していた。
同展では、住宅作品に鮮明に現れるモダニズムと伝統の相克と、両者への「架け橋」を追求する独自の思想と手法に焦点を当て、ひとりの建築家の初期から後期までの展開をたどっている。住宅や逓信省関係の建築のほか、大学時代の課題や設計コンペに応募した図面、吉田がドイツ語で刊行した『日本の住宅』などの著作、ブルーノ・タウトらの外国人建築家との交流の記録など約150点が展示されている。

富山県立福野農学校設計図
今回の展示では、出身地の福野郵便局や富山県立福野農学校のほか、東岩瀬の資産家・馬場家の依頼により建築した住宅、北陸銀行新潟支店の図面など、富山ゆかりの建築の資料が多数紹介されている。吉田は、旧制富山高校の創設に私財を投じた馬場はるおよびその長男・正治と交流があり、馬場氏牛込邸のほか、馬場氏那須山荘、馬場氏烏山別邸、馬場氏熱海別邸などを設計した。
旧馬場氏牛込邸(現・最高裁判所長官公邸)は1928年、馬場はるが東京の大学に進学した正治の住居として牛込台地の高台に建てたもので、庭園に面して客間や居間などを連ね、和洋の意匠や空間の機能を巧妙に組み合わせた構成などに吉田の特長が表れている。昭和初期を代表する和風建築として国の重要文化財に指定されている。

国重要文化財・旧馬場氏牛込邸(文化遺産オンラインより)
馬場氏烏山別邸は芝生に面して立てられた白いタイル張りの鉄筋コンクリート2階建て住宅で、シンプルなモダニズム建築。日本特有の生活様式を反映させた機能性の高い住まいとなっており、光の取り入れ方にも工夫がみられる。

オーラルヒストリーで語る馬場是久氏
馬場はるの孫にあたる馬場是久氏は今回の展示に当たり、吉田が建てた牛込邸などの思い出を振り返り、「建築にあたって富山から職人が出向き、鴨居や畳を手がけたと聞いている。富山県人がかかわった建築の粋を感じ取ってほしい」と述べている。馬場氏は会期中上映されるオーラルヒストリーでも吉田の建築について語っている。
「吉田鉄郎の近代 モダニズムと伝統の架け橋展」は2月11日まで開催。開館時間は10時〜16時30分。入館無料。