揺らぐサムスン共和国:車載用バッテリー市場に期待をかけるサムスンSDI
国士舘大学経営学部客員教授 石田 賢
サムスングループの一員であるサムスンSDIの主な事業は、小型電池の販売先としてはサムスン電子、サムスンディスプレイ、HP、Dell、Amazonなどであり、車載用の中型電池ではフォルクスワーゲン、BMWなどを顧客とし、大型蓄電池である大容量蓄電池(以下ESS: Energy Storage System)では発電所や変電所、企業・業務用などが納入先である。
サムスンSDIは、小型から大型までの電池を生産販売するエネルギーソリューション事業部と半導体およびディスプレイなどの素材を生産販売する電子材料事業部の2つの事業部から構成されている。小型電池、車載用の中型電池、大容量のESSなどを主力としているエネルギーソリューション事業部が、売り上げの7割以上を占めている。
サムスンSDIは、小型電池の販売好調に支えられて、安定した収益状況で推移してきたが(図表①)、2019年第3四半期の営業利益は1,660億ウォンと前年同期比ではマイナス31.3%と大幅に減少、第4四半期には営業利益が283億ウォンまで激減し、第4四半期の売上高営業利益率は1%まで落ち込むと予想されている(DB金融投資)。

図表① サムスンSDIの売上高、営業利益の推移
資料 : サムスンSDI四半期報告書(2019.11.14)及びDB金融投資より作成
その主因は小型電池の需要鈍化とESSの発火事故である。とくにサムスンSDIのESS製品を設置した工場での火災は、昨年から2019年10月末現在までに合計10件に達しており、企業の信頼を根幹から揺るがしている。
こうした経営不安の払拭を期待されるのが車載用のバッテリーである。サムスンSDIは、慶南(キョンナム)と蔚山(ウルサン)の他、中国西安とハンガリーに車載用バッテリー工場を稼働している。
この車載用バッテリーも数年前までは中国勢の影はほとんど見られなかったが、中国政府の支援、自らの技術開発、海外から優秀な人材のヘッドハンティングなどにより、2019年9月の車載用リチウムイオン電池の占有率は、トップのパナソニックに続いて寧徳時代新能源科技(以下CATL)が第2位、第3位がLG化学、第4位に比亜迪(以下BYD)などの順であり、上位10社のうち4社が中国企業で占められている(図表②)。

図表② 車載用リチウムイオン電池の占有率
注 : MWhはバッテリーエネルギー総量 資料 : SNEリサーチ(2019年11月)
電気自動車の最大手テスラが2019年11月、2020年初から稼働する上海工場にCATLのバッテリーを使用することに暫定合意している。BMWグループもCATLとのバッテリーセルの供給契約を拡大しており、これまでの契約規模が73億ユーロ(約8,610億円)に達する。この契約は2021年から10年間とされ、BMWの中国・瀋陽工場などに供給される予定である。
サムスンSDIは2019年11月、BMWから29億ユーロ(約3,420億円)のバッテリーセルの契約を結んだ。この契約も2021年から10年間の長期契約である。サムスンSDI はBMWのほか、電気自動車の導入に積極的なフォルクスワーゲン、アウディ、ボルボなどの自動車メーカーと連携を強化しており、生産能力拡大に向けてハンガリー工場を拡張する計画である。
2021年から中国政府のバッテリー補助金が完全に廃止されることで、バッテリー需要は落ち込むと見込まれ、供給過剰から中国企業を含めて、淘汰される企業が続出する見通しである。これによる需給の安定に加えて、バッテリーの重要な素材であるリチウム、ニッケル、コバルト、マンガンなどの資源が、需要低下と供給先分散化の動きにより、それらの価格は当面安定的に推移する見込みである。
このように2020年のバッテリー事業環境はサムスンSDIにとって好転の機会ではあるものの、小型電池需要の頭打ち、ESSの発火事故による販売停止、期待される車載用バッテリーも2019年3月にフォルクスワーゲンが「欧州電池連合(EBU)」の設立発表、その2か月後にはドイツとフランスが官民で60億ユーロ(約7500億円)を投資すると発表するなど共同で自主開発に乗り出しており、さらに中国企業との激しい価格・開発競争にどこまで主導権を握れるか、今後も生き残りをかけた厳しい戦いが続く。