とやまの土木―過去・現在・未来(21) 富山で液状化を考える~現在の課題と未曾有の液状化災害~
富山県立大学講師 兵動太一
はじめに
私が前職で大変お世話になった先生の一人である龍岡名誉教授(東京大学、東京理科大学)は講義の中で「地盤災害とその対処はA Never Ending Story」と仰っていました。研究者や技術者達は凶暴化する地震や豪雨などの自然災害に対して日々対策を考え、技術の向上や基準や制度の改善を行ってきました。
しかしながら、1995年の兵庫県南部地震や2011年の東北地方太平洋沖地震といった「未曾有」の被害をもたらした大震災によって、社会の安全安心に対する要求レベルはどんどん上がっています。地盤防災には「これで大丈夫!」ということはないのです。
1回目では液状化のメカニズムと富山県における地震の発生確率や液状化リスクについて紹介しました。今回は液状化対策を中心とした筆者の研究に加え、今後考えなければいけない問題の一部を紹介したいと思います。
液状化対策と課題
前回も記載させていただきましたが、液状化は以下の3つの条件で発生します。(詳しくは前回の記事を参照して下さい)。
① 緩い砂質土層(砂質土地盤)であること。
② 地盤が飽和している。(地下水位が浅く、対象地盤が地下水位より深いところに位置する)。
③ 地震動の強さが大きいこと。(加えて継続時間が長い)。
液状化被害にあわないようにするためには上記に該当しない土地を選定すればよい話ですが、実際には難しいケースが多いです。

図1 日本、イギリス、フランス、ドイツにおける可住地面積
(国土交通省 第9回国土幹線道路部会資料による)
図1に日本、イギリス、フランス、ドイツの可住地面積を示します。ここで、非可住地は、標高500m以上の山地及び現況の土地利用が森林、湿地等で開発しても居住に不向きな土地利用の地域を示します。具体的には、標高500m以下で現況が市街地、畑地、水田、草地、果樹園等(疎林、かん木、まばらな木またはかん木を含む草地、まばらな植生〔草、かん木、木〕、農地と他の植生の混合)の土地利用の地域のことを指します。
一方で可住地は非可住地以外の地域のことで、具体的には、標高500m以下で現況が市街地、畑地、水田、草地、果樹園等(疎林、かん木、まばらな木またはかん木を含む草地、まばらな植生〔草、かん木、木〕、農地と他の植生の混合)の土地利用の地域を指します。
図より国土面積に占める可住地割合を国別に示すと、日本:27.3%、イギリス:84.6%、フランス:72.5%、ドイツ:66.7%となり、わが国の国土は急峻であり、諸外国と比べて、国土面積に占める可住地割合が小さいことが分かります。また比較した国の中でもわが国は最も人口が多いため、慢性的な土地不足となり、より限られた土地を有効活用しなければなりません。例えばかつて羽田マヨネーズ層と呼ばれたほどの軟弱地盤上に羽田空港などの重要施設を建設しなければならなかったのは利便性のある場所に土地がなかったためだということは簡単に分かると思います。
このように土木構造物や建築物を建設する上で他国では考えられないほどの悪い条件の地盤で施工を行うことはわが国では珍しいことではありません。住宅地に関しても例外ではなく、経済成長で急増した都市部の人口をカバーするため臨海部や旧河道などを埋め立て、ベッドタウンを拡大した歴史がありました。このようなエリアでは前述の液状化の発生条件を満たすことが多くなるため対策が必要となります。
では、どのように液状化を防げばよいのでしょうか。理論上は簡単で液状化の発生条件の逆をしてやればよいのです。ただし、人間の手で地震をとめることができないので、前述の③は除きます。 以下に液状化を防ぐ条件(④~⑥)を記載します。
④ 砂層を締め固める。
⑤ 飽和地盤の排水を行い、地下水位を下げる。
⑥ 砂の粒度を改良するか薬液やセメントなどを用いて砂地盤自体を固める。
近年は重要な構造物に対しては液状化対策が進んできましたが、実は戸建住宅に対しては多くの課題が残されています。戸建住宅の液状化対策の最大の問題は、対策費用を個人で持たなければならないことです。

図2 液状化対策費用と施工面積の適用範囲の関係
(地盤工学会関東支部 造成宅地の耐震対策検討委員会資料より一部加筆・修正)
図2に液状化対策費用と施工面積の適用範囲の関係を示します。振動式SCP(サンドコンパクションパイル)工法、静的締固砂杭工法および深層混合処理工法においては施工面積が広く液状化対策費が低いことが分かります。対して戸建住宅の面積に対応している圧入式締固工法および高圧噴射攪拌工法は施工面積が狭いですが、液状化対策費用は高いです。個人が液状化対策を行う上で、国や自治体から補助金が交付されるケースはありますが部分的であるため、今後は施工面積が狭く安価な工法の開発をする必要があります。

図3 戸建住宅を対象とした液状化に対する代表的な対策工法
(地盤工学会関東支部 造成宅地の耐震対策検討委員会資料より一部加筆・修正)
それでは技術面ではどうでしょう。図3に2011年東北地方太平洋沖地震を機に地盤工学会関東支部の委員会で検討された代表的な液状化対策工法を示します。全てにおいて前述の④~⑥の何れかの条件を元に行われています。
液状化対策工法は従来、一度地盤上にある構造物を撤去し、対象地盤に対策をしていました。しかしながら、個人の戸建住宅となると、一度家を壊して、地盤を改良し、その後建て直すということが難しいです。そこで、既設の構造物直下の地盤においても対応可能な工法が開発されました。図2で紹介した圧入式締固工法および高圧噴射攪拌工法もその一例となります。何れの工法も液状化に対して一定の効果を発揮するものですが、地盤の条件や予算、長期耐久性などを踏まえて議論を重ね改善して行く必用があります。
「未曾有」の液状化災害

図4 液状化による鉄筋コンクリート建造物の転倒(新潟県新潟市)
(防災科学技術研究所 1964年新潟地震オープンデータ特設サイトによる)
昨年2018年インドネシアで2018年スラウェシ島地震(図5)が発生しました。私は学生の頃、講義で「液状化は財産(家)を奪うが人は殺さない」と習いました。1964年の新潟地震では図4のように液状化によってアパートといった鉄筋コンクリート構造物の転倒が多く見られましたが、液状化に起因した死者はいなかったそうです。

図5 2018年スラウェシ島地震の震源地(産経ニュース 2018年10月3日記事より)
一方で2018年スラウェシ島地震においては、死者2113人、行方不明者1300人以上となりました。国際協力機構(JICA)調査団は犠牲の大部分は液状化に起因すると分析しています。液状化で人が亡くなったことで私もそうでしたが多くの研究者が常識を覆されショックを受けたと思います。
この地震ではスラウェシ州パル市で観測史上類を見ない大規模な液状化が発生しました。図6にパル市の液状化被害エリアの衛星写真を示します。被害エリアは全長2km以上ということです。地震後は液状化による土砂により街が覆われてしまっています。

図6 パル市バラロア地区における衛星写真(上:地震前、下:地震後)
(BBC NEWS JAPAN 2018年10月3日記事より)

図7 パル市における液状化に伴う地滑りのメカニズム
(時事ドットコムニュース 2018年10月24日記事より)
JICA調査団の報告によると図7のような状態から液状化が発生し、ゆるい傾斜の地盤に地すべりが起きたとのことでした。また「パル市のような扇状地や、浅い部分を地下水が流れる土地ではどこでも起き得る」と警鐘を鳴らしています。現在の日本の液状化対策ではこの規模の液状化には対応できないでしょう。富山でも該当する地域が存在するためデータを蓄積し研究をすることで未曾有の液状化の発生メカニズムを解明する必要があるわけです。
おわりに
今回は2回にわたり液状化に関してお話をさせていただきました。2回目はわが国における液状化対策とその課題及びインドネシアで発生した未曾有の液状化災害についての話題を紹介しました。学生からは「立山が守ってくれるから大丈夫!」「富山だから災害の心配はないよ!」という声をよく聞きますが、皆様はどう思われますか? 今回の連載を機に皆様が液状化をはじめ地盤災害への対策に対しての関心を持っていただければ幸いです。
参考文献
国土交通省 第9回国土幹線道路部会:https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/road01_sg_000157.html , (2019年11月閲覧)
地震による液状化とその対策(2012):オーム社、78-79p.
絵とき 土質力学(改訂3版)(2013):オーム社、146-147p.
地盤工学会関東支部 造成宅地の耐震対策検討委員会:http://www.jgskantou.sakura.ne.jp/group/takuchiv3_1.html , (2019年11月閲覧)
防災科学研究所 1964年新潟地震オープンデータ特設サイト:http://ecom-plat.jp/19640616-niigata-eq/index.php?gid=10020 , (2019年11月閲覧)
時事ドットコムニュース:地滑り・津波、液状化が原因=「日本でも起き得る」-インドネシア地震・JICA、2018年10月24日掲載、https://www.jiji.com/jc/graphics?p=ve_int_indonesia20181024j-03-w390 , (2019年11月閲覧)
ひょうどう・たいち 山口県出身。山口大学大学院理工学研究科博士前期課程修了後、株式会社錢高組、 早稲田大学理工学術院、東京理科大学を経て着任。地盤工学、地盤防災学などを専 門とする。