成長戦略実行計画案に地銀や乗り合いバスの経営統合促進と特例法制定を盛り込む
政府はこのほど、「Society5.0 の実現」「全世代型社会保障への改革」「人口減少下での地方施策の強化」を柱とする2019年の成長戦略実行計画案をまとめた。未来投資会議での議論を踏まえ、毎年6月に成長戦略を取りまとめており、第2次安倍政権発足後では7回目の策定となる。
地方施策の強化の一環として、地域のインフラ維持を重視し、地銀や乗り合いバスの経営統合促進と特例法の制定を掲げる。銀行と乗り合いバスを対象に独占禁止法の除外を認める特例法を20年の通常国会に提出し、10年間で集中的に再編する方針を盛り込んでいる。
地銀、乗合バスは地域の基盤企業であり、その維持は国民的課題であるが、少子化、人口減少の中でその経営は急速に悪化している。インフラ機能維持のためには経営力強化が喫緊の課題であり、その選択肢として経営統合や共同経営の実施が見込まれる。
こうした地域基盤企業の経営統合等に関して、特例的な措置を講ずることにより地域社会のコミュニティの維持を図るとともに、経営統合等から生じる消費者・利用者への弊害を防止し、経営統合等の果実を地域のインフラ維持や経済発展に活用することにより、独占禁止 法の究極的な目的である「一般消費者の利益」を確保することが不可欠としている。以下、計画案に沿って、その要旨を紹介する。
1.乗合バス
複数の乗り合いバス事業者あるいは競合する地域交通機関の間で認可要件を設けた上で共同経営を認める。
現状
地方では公共交通が減少し、自家用車依存の生活を強いられることへの不安がある。高齢者の免許返納が進む中で、乗合バスを維持する必要性は増加している。他方、乗合バス事業者の3分の2が赤字となっており、特に地方における一般乗合バス事業者の収支の悪化が
顕著になっている。

乗合バス事業者の収支状況(2017年度)
対応の方向性
街の中心部等では複数の乗合バス事業者や地域交通機関が過剰に頻度の高い運行を行っている。これらの事業者間で共同経営等を認めることで便数の適正化を図りつつ、運賃プールなどにより収入の調整を行って低需要地区の路線を維持することができれば、広範囲の住民の利便性が確保される。
すなわち、中心市街地を運行するバス事業者等の運行間隔等について共同経営を認めることにより、その収入をプールすることで低需要の山間部等の路線を維持するもので、低需要地区の路線のサービス維持が共同経営認可の条件となる。
この際、事業者間の連携した取組により基盤的な運行サービス提供がネットワークとして確保されることが可能となる地域を対象とした地域公共交通活性化再生法に基づく協議会の設置を前提にする。対象とすべき区域、地域全体の利便性維持・向上の計画、確保すべきサービス内容の目標は複数の事業者間で設定する。
計画の対象とする区域は、事業者間で便数の適正化等を図る区域のみならず、それにより運行が確保される山間部等の不採算路線を含んだネットワーク全体の区域とする。共同経営等の認可要件としては、周辺部の不採算路線を含むネットワーク域内全体でみて、事業収支が赤字で、共同経営等を行わない場合、周辺部の運行サー ビス提供が困難になると予測される場合などとする。
2.地域銀行
地方銀行の業績悪化により地域の金融仲介機能に支障を及ぼす恐れがある場合、マーケットシェアが高くなっても特例的に経営統合が認められるようにする。
現状
地方においては、地方銀行・第二地方銀行が7割から8割の企業のメインバンクとして地域経済を支えている。しかし、地域銀行の貸出利鞘は低下し続けており、経営が悪化している。
他方、銀行はシステム費用等の多額の固定費が発生するため、規模の経済性が働きやすい。このため、経営統合による経費削減余地が大きく、経営統合は銀行の持続可能性にプラスの効果があると推測される。

地方銀行・第二地方銀行は、全国の5割の企業のメインバンクである。
対応の方向性
地域銀行は、地域において重要な役割を担っており、人口減少社会においても、 そのサービスを適切な形で維持する必要がある。地域銀行の業績悪化の状態が継続すれば、悪影響が 広範な預金者や債務者に及び、地域金融において十分な金融仲介機能が発揮できなくなるおそれがある。
このため、業績悪化により当該銀行が業務改善を求められており、この状態が継続すれば、当該地域における円滑な金融仲介に支障を及ぼすおそれがある場合に限定して、早期の業務改善のために、マーケットシェアが高くなっても、特例的に経営統合が認められるようにする。
経営統合を認めるにあたっては、当該銀行が不当な金利引上げや融資条件の悪化のような弊害を防止する措置を実施しているか、また、経営統合により生じる余力の範囲で、当該銀行が地域経済への貢献に関わる取組を実施しているか、 といった点について、主務官庁が検査・監督を通じて、経営統合後の履行状況を監視する。
その上で、経営統合を認めた条件に適合しなくなった場合は、当該銀行に是正を命じ、是正命令に従わない場合、罰則を適用する。
3.特例法の対象範囲の限定
特例法の対象範囲については、地域における基盤的サービスの提供を担っており、経営統合や共同経営による経営力強化の効果が大きいことが見込まれ、かつ主務官庁が経営統合や共同経営を実施した後の行動を監視・監督できる分野に限定することが必要であり、当面、上記2分野に限定する。
本施策は10年間の時限措置とし、2020年の通常国会に特例法の法案提出を図る。
このほか、計画案では地方施策の強化策として「地方への人材供給」「人口急減地域の活性化」「国家戦略特区」「中小企業・小規模事業者の生産性向上」についても対策を示している。