とやまの土木-過去・現在・未来(6) とやまのコンクリート
富山県立大学工学部環境・社会基盤工学科教授 伊藤 始
本稿では、著者の専門であるコンクリートにまつわる話を述べていきたい。これまでの話題である河川や水から離れることをご容赦いただきたい。
さて、富山県内では、中心市街地においてビジネスホテル建設の事業や計画が進んでおり、大型ショッピングセンターの増床工事も続いている。県立大学の新校舎工事の様子を研究室の窓から望むことができ、ここ数日は4階部分の梁と床にポンプ車のブームが伸びて、コンクリートを打ち込んでいる。来年春には新たな学び舎となり若者たちによる賑わいが創り出されることを期待させる風景だ。このような活気のある街づくりや地域づくりを支えているコンクリートのことを、この機会に知っていただければ幸いである。
コンクリートを構成する材料
まずはコンクリートの基礎的な事項について述べていきたい。コンクリートは、水、セメント、砂、砂利で構成され、その中には水の凍結によるひび割れを防ぐために一定量の空気泡を含ませる。
ここで、水とセメントを混ぜたものを専門用語でセメントペースト、砂を細骨材、砂利を粗骨材と呼ぶ。これらの容積比は、骨格となる骨材が約70%、接着剤となるセメントペーストが約25%、空気泡が約5%である(図-1)。このうち、セメントを除いた材料は建設現場の近くで採取することができる。富山県において骨材は庄川水系、早月川水系、常願寺川水系などの川砂利や川砂、山砂利や山砂が使われる。セメントは糸魚川市などにあるセメント工場から運搬される。

図1 コンクリートの断面
コンクリートは、これらの材料が固く結びつくことで、構造物に必要となる強度や抵抗性を発揮することができる。コンクリートでは、フレッシュコンクリートと呼ばれる固まる前のコンクリートの性質と、硬化コンクリートと呼ばれる固まった後のコンクリートの性質を考える必要がある。フレッシュコンクリートから硬化コンクリートになるときに、骨材の状態は変化しないのに対して、セメントペーストの状態は変化する。そのため、このセメントペーストの硬化状態がコンクリートの性能を左右し、その理解が大切である。
コンクリートの製造と供給
次にコンクリートの製造と供給について、富山県の状況を含めて述べていきたい。
コンクリートの製造は材料の準備から運搬、品質検査までを指し、主にコンクリート製造会社により実施される。製造では、季節や時間にかかわらず同じ品質のコンクリートが練り上がり、運搬され、打ち込み場所に提供されることが必要であり、そのために製造上のばらつきを安定させるように管理している。製造場所により、生コンクリート工場で作られるレディーミクストコンクリートとダムやトンネルなどのその工事専用の設備を用い現場で製造されるコンクリートに分けられる。

図-2 レディーミクストコンクリートの出荷量(提供:富山県生コンクリート工業組合)
富山県では、各生コンクリート工場の技術的支援を行うために「富山県生コンクリート工業組合」が1978年に設立された。同組合によれば、出荷量は図-2のように北陸新幹線工事の最盛期に比べて減少したものの、2017年度から2018年度にかけて増加しており、ここ数年はおおむね横ばいである。
富山県内のJIS認証工場は新川地区6工場、富山地区15工場、高岡地区7工場、砺波地区7工場の合計35工場であり、朝日町から南砺市まで設置されている。コンクリートの硬化時間を踏まえて運搬時間を短くする必要があり、工場の立地は建設現場まで無理なく運搬できる距離となっている。
工場の監査の役割を果たす「富山県生コンクリート品質管理監査会議」は、1997年に設立された。各工場の一層の品質向上を図ることを目的に、中立性、公平性、透明性を高めた監査を毎年実施している。これらの状況が支えとなって、良質な生コンクリートが今後も安定供給される体制が整えられている。
コンクリートの施工
コンクリートの施工とは、製造されたコンクリートを所定の形状の型枠内に流し込み、硬化させるまでの工程をいう。施工の目的は、コンクリートが流動した状態で均一性と密実性を確保すること、そしてコンクリートが硬化するまでその状態を保持することである。加えて、内在する鉄筋や配管などの埋設物を打ち込み前の位置からずらさないこと、コンクリートの表面状態を平滑にすることが目的である。富山県では施工品質を向上するために、「富山県建設業協会」が加盟企業に対して各種技術講習会を実施している。

図-3 コンクリートの施工と硬化後のコンクリート
一方、建設会社では様々な独自の工夫を凝らしてコンクリートを施工している。その一例として高岡地区の高架橋工事(図-3)においてコンクリートが固まる際にその表面を急激に乾燥させない工夫を紹介する。1つの現場ではコンクリート表面にシートを設置し、もう1つの現場ではシートに加えて内部温度を計測していた。さらに他の現場では、含浸系撥水材を塗布していた。このようにコンクリートの施工では、より良い構造物を造るための工夫が随所に施されている。
プレキャストコンクリート製品の活用
前述したレディーミクストコンクリートとは別に、コンクリート製品を工場で製造して、建設現場に据え付けるプレキャストコンクリート(PCa)製品がある。身近なコンクリートであるU型側溝、道路縁石、農業用水路、電柱、水道管などがこのPCa製品である。PCa製品は、工場製造のため品質が安定しており、新材料やリサイクル材料を導入しやすい特徴がある。加えて、現場作業を軽減できるため工期短縮や省力化に寄与する特徴がある。

図-4 プレキャストコンクリート製品の出荷量(提供:富山県コンクリート製品協会)
「富山県コンクリート製品協会」によれば、加盟企業(13社)の出荷量は図-4のように北陸新幹線工事の最盛期に比べて減少したものの、2017年度で13万9千トンであり横ばい傾向にある。一方、同協会の認定委員会では、PCa製品の品質安定のために独自の規格を設けて毎年の検査を実施している。富山県においても熟練技能者の減少を考えると、今後のさらなる活用が期待される技術である。
フライアッシュコンクリートの広がり
最後に、北陸地方で広がりつつあるフライアッシュコンクリートについて紹介する。
現在、北陸地方ではコンクリートに石炭火力発電所からの産業副産物であるフライアッシュ(石炭灰)を混和する取り組みが進んでいる。石炭灰の質量は、燃焼される石炭の質量の約1割であり、そのうち約9割が電気集塵機で採集されるフライアッシュである。石炭灰の発生量は原子力発電所の停止等の影響を受けて増加傾向にある。石炭灰処分場の容量に限りがあり、持続可能な社会構築の観点から他の用途に石炭灰を利用することが重要となっている。
フライアッシュをセメントの代替材としてコンクリートに混和することで、緻密化による長期強度の増進や耐久性の向上、施工性能の向上のメリットがある。また、セメントに置き換えて使用するため、セメント製造時のCO2削減、水和熱によるひび割れの抑制、劣化現象であるアルカリシリカ反応の抑制の効果もある。

図-5 フライアッシュコンクリートの打設量(提供:有効利用検討委員会)
著者が委員を務める産官学が連携した「北陸地方におけるフライアッシュコンクリートの有効利用検討委員会」が2011年1月に設立され、各種性能試験の実施、製造施工マニュアルの作成、供給体制の整備、試験施工の支援等を実施してきた。その活動もあり、図-5のように北陸地方における打設量が着実に増加してきた。特に富山県では図-6のような治山堰堤や橋脚の工事に使われ、2018年度の打設量が1万1,500 ㎥であり、前年度の約3倍であった。

図-6 フライアッシュコンクリートの施工例(提供・有効利用検討委員会)
一方、著者らは、フライアッシュを添加した再生骨材コンクリートの研究を行っている。再生骨材コンクリートとは、構造物の取り壊しに伴うコンクリート塊を骨材として再利用したコンクリートである。再生骨材コンクリートでは力学性能や耐久性が低下するが、フライアッシュを添加することで性能の改善につながることが分かってきた。この技術を多くの構造物に適用することで、廃棄物量の増加や天然骨材の枯渇といった将来的な問題が改善できると考えている。
いとう・はじめ 愛知県名古屋市出身。名古屋大学大学院修了。現在、富山県立大学工学部環境・社会基盤工学科教授。コンクリート工学や構造工学を専門とする。