とやまの土木 ─過去・現在・未来(1) はじめに

富山県立大学工学部 環境・社会基盤工学科教授 高橋 剛一郎 

 2018年春、72年続いた月刊誌「実業之富山」が突然休刊となったことはとても残念だった。地元富山の産業・経済界のさまざまな情報を発信するコンテンツはもとより、私はそれからはずれたさまざまなトピックスについての連載をより楽しみにしていたのである。

 それが唐突に読めなくなりがっかりしていたところ、Web版で復活すると聞き、またあの連載が読めるかもしれないと、嬉しく思っていた。そうしたところ、瓢箪から駒のような偶然で、私どもが連載を持たせていただくこととなった。

 私どもというのは、富山県立大学工学部環境・社会基盤工学科の土木系教員グループである。私以外では「実業之富山」を知らない者も多いので、嬉しく思っていたのは私だけかもしれないというのが正確なのだけれど、ともかく連載を持たせていただけることに感謝している。

 連載の中心となるトピックスは、「富山」と「土木」である。「実業之富山」の主たる対象の実業は、ものづくり県を自認する富山ではものづくりの産業が中心であると思われる。その中にあって、土木に関する内容は決して多くはなかったようだし、このようなことから、土木に関わりの少ない方が主たる読者層ではなかったかと考えるのである。土木はもちろん虚業ではなく実業に含まれその情報を発信することに意義はあると考えている。

 近年は以前に増して豪雨が発生し、全国各地で洪水による災害が起こっている。地震も然り。これらの災害への対応の中心となるのが土木である。また、戦後の高度経済成長期に造られた多くの土木構造物の老朽化が顕在化し、例をあげれば、富山県内の橋梁で機能を果たせなくなったものがいくつも出てきている。

 これらへの対応の中心となるのが土木である。あるいは、新幹線や高速道路の建設も土木が担っている。これらはわかりやすい例であるが、土木が担っている分野は非常に幅広い。

 土木学会が出している土木学会論文集は分野に応じてなんと19に分冊化されている。主だったものをあげれば、構造物の構造や耐震などを取り扱う構造・地震工学、河川の水理や防災を扱う水工学、海岸工学、土質や地盤を扱う地圏工学、コンクリートなどの土木材料を対象とする材料・コンクリート構造、衛生工学や環境部門を扱う環境、マネジメントや社会科学色の強い部分を扱う建設マネジメントなどがある。これ以外にもまだ多数の分野があり、とにかく土木の間口の広さがわかっていただけるだろう。

 連載では、富山県立大学工学部環境・社会基盤工学科の土木系の教員が、富山に関係の深い土木のトピックを取り上げていく予定である。富山に関係するといいつつ、一般的な内容を知っていただかなければ具体的なトピックを理解できないこともあり、その場合は基本的な内容の説明が中心になることもあると思う。こういうときは、十分に理解していただくうえでの一助と思っていただければ幸いである。学校での講義のような堅いスタイルにはしたくないと考えている。

 連載を執筆するメンバーが所属している富山県立大学工学部環境・社会基盤工学科について紹介させていただきたい。現在は博士後期課程までを抱える組織であるが、その起源は1962(昭和37)年に創設された富山県立大谷技術短期大学である。1963(昭和38)年に衛生工学科が作られ、1972(昭和47)年に設立された農林土木科とともに土木工学の教育・研究を行ってきた。同短期大学はその後富山県立技術短期大学となり、富山県立大学が設立された1990年(平成2年)に富山県立大学短期大学部となった。

 そして2009年(平成21年)に富山県立大学工学部に加わり4年制化した。両学科については、短大時代に改編や改名を経て、工学部に加わる時点で環境工学科となり、2017年(平成29年)に環境・社会基盤工学科に改名された。

 このように、我々の学科は短大時代を入れれば50余年にわたって土木の教育・研究を行ってきており、富山県内外の多くの土木系企業や公官庁に卒業生を輩出してきた。今後ともよろしくお見知りおきいただきたく、お願いする次第である。

たかはし・ごういちろう
富山県立大学工学部環境・社会基盤工学科教授。富山県黒部市出身。大学では農学部林学科砂防工学研究室に所属し、砂防工学、森林科学などを学ぶ。1983年富山県立技術短期大学農林土木科助手となり、2009年富山県立大学工学部環境工学科准教授を経て現職。砂防工事などの防災工事と自然環境の保全の調和を目指した工種・工法の研究を主たるテーマとする。農学博士。

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