南北経済協力の行方

経済協力の前提は統計整備

 韓国政府の言動とマスコミの報道は連日、北方ビジネスの可能性に沸き立っているが、過去を振り返る必要がある。
 1998年に金大中大統領の新政権発足後10年間、南北経済協力が活発な時期があった。この間サムスン(電話機の生産)、現代、大宇など財閥企業が北朝鮮と合作または合弁形態で工場を稼働したが、わずか数年で頓挫した。鉄鋼メーカー・ポスコが北朝鮮の石炭開発に乗り出したが、道路・鉄道・港湾などすべてのインフラ不足で、北朝鮮の南浦(ナムポ)港から韓国の光陽(クァンヤン)港までの輸送に15日かかり、すぐに中断に追い込まれた。韓国企業の南北経済協力は、政府の圧力に逆らえず、これに準備不足も加わって失敗した苦い経験でしかない。
 こうした過去の失敗を払拭するには、まず北朝鮮の法整備(投資・税制・労働等)と併せて、正確な統計資料の整備が欠かせない。韓国銀行などの推定にとどまっている北朝鮮のGDPはじめ、北朝鮮自身が正確な統計資料を揃えることが、経済協力の大前提である。
 北朝鮮の統計資料が整備されたた後、国際通貨基金(IMF)、世界銀行(WB)、アジア開発銀行(ADB)、アジアインフラ投資銀行(AIIB)などの国際金融機関に北朝鮮が加入し承認を受けて後、案件ごとに事業評価が行われ、融資可否審査などの段階を踏まなければならない。

南北経済協力に山積する課題

 北朝鮮が国際金融機関に加盟できたとしても、乗り越えなければならない課題は山積している。
 第一に、国連安保理の制裁解除は、検証可能、不可逆的な非核化(CVID)が現実とならない限りあり得ない。国連安保理は2017年8月、北朝鮮との合作事業の新設・拡大を禁止する制裁案を決議し、同年9月と12月には北朝鮮への石油類の輸出を制限し、北朝鮮人労働者のビザ更新も禁止している。
 第二に、韓国政府は北朝鮮に対して鉄道・道路建設資材などこれまでに総額3兆5,000億㌆(約3,500億円)を借款形式で提供したが、2010年以降、北朝鮮はほかの協力事業とともに中断し未償還状態のままである。
 第三に、2016年2月に開城(ケソン)工業団地が突然閉鎖された前例から、韓国が北朝鮮との共同事業に安全性が確保できるかどうかである。
 これらの課題をクリアしインフラ整備に着手したとしても、そこから民間投資が本格化するまでには最低10年の時間がかかるとみなければならない。
 しかも南北経済協力が、順調に拡大していくとは考えにくく、長期間にわたる紆余曲折を覚悟する必要がある。
 北朝鮮は、大陸勢力と海洋勢力の緩衝地帯であるという立場を利用し、米中露を天秤にかけて漁夫の利を得てきた歴史を持つ。北朝鮮が問題解決にいつも大国を巻き込んできた過去を顧みると、今後の経済協力が軌道に乗るまでには、北朝鮮の手ごわい交渉術を予め覚悟しなければならないだろう。

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