南北経済協力の行方
韓国の産業を俯瞰すると、成長を牽引してきた自動車、鉄鋼、造船、石油化学なども沈滞する局面を迎え、生産・輸出で唯一活力をもたらしてきた半導体も価格下落傾向から、今や危機論がささやかれ始めている。
こうした中でも「北方ビジネス」に対する韓国政府の考えは、国連による対北朝鮮制裁の解除を経済協力の前提としているものの、北朝鮮へのインフラ投資、鉱物資源の開発、消費市場としての期待を高らかに謳うばかりである。
韓国財界も政府の意向に表面的には従う姿勢を貫いている。2018年9月の平壌(ピョンヤン)首脳会談特別随行団には、韓国から韓国経営者総協会の孫京植(ソン・ギョンシク)会長、SKグループの崔泰源(チェ・テウォン)会長、サムスン電子の李在鎔(イ・ジェヨン)副会長、大韓商工会議所の朴容晩(パク・ヨンマン)会頭、LGグループの具光謨(ク・グァンモ)会長など、政・財界の大物53人が参加した。
北朝鮮の深刻なインフラ不足
北朝鮮のインフラ整備については、各機関がさまざまな費用推計をしているが、いずれにしてもこれには天文学的な資金が必要となる。
現地報道の中からいくつか列挙すると、韓国金融委員会は、2014年の「統一金融報告書」で北朝鮮インフラ開発に鉄道(773億ドル)と道路(374億ドル)で合計1,400億ドル、韓国交通研究院は、北朝鮮の鉄道網近代化に最大30年160兆ウオン、韓国建設産業研究院は、北朝鮮経済特区開発、エネルギー教育などインフラ投資に年間27兆ウオン、10年間に270兆ウオン、などと推計している。
北朝鮮のインフラは、鉄道、道路、港湾、電力のどれをとっても劣悪な状態にある。
まず鉄道から見ていくと、北朝鮮の鉄道網は総延長5,304km、主要路線は4本に過ぎず、基本的に単線となっており、全長のわずか2.9%しか複線化は実現していない。
北朝鮮の道路も総延長は2万6,170kmであるが、韓国と比較して4分の1水準にとどまる。高速道路も平壌-開城(1992年竣工)、平壌-元山(1978年竣工)、平壌-香山観光道路(1995年竣工)などに限られ、総延長は729kmである(図表3)。これを国際標準の規格で整備するとなれば、1㎞当たり19.1億円(米国基準)とすると、既存の高速道路729㎞だけでも1兆3,924億円の整備費がかかる。
港湾施設も脆弱であり、韓国産業銀行が推計した北朝鮮の総荷役能力は2016年末基準4,157万tにすぎず、韓国11億4,000万tのわずか3.6%水準である。北朝鮮が保有している船舶トン数も、韓国の4,460万 G/T(総トン数)に対して93万 G/Tと2.1%にとどまる。
とくに西海に面した北朝鮮最大の貿易港・南浦(ナンポ)などの港湾では、干満差が大きく水深が浅いうえに、大同江(テドンガン)からの土砂が堆積しやすく、国際港とするには、浚渫から始めなければならない。
日本海側の羅津(ラジン)、先峰(ソンボン)、清津(チョンジン)も埠頭面積が狭いうえ老朽化が激しく、日・韓・中と物流ネットワークを構築するには大きな障害である。なお羅津は3つの埠頭を持つものの、1号埠頭が中国企業、2号埠頭がスイス、3号埠頭がロシアに10~50年間の使用権が与えられている。
さらに電力は致命的な状況にある。北朝鮮の電圧は、地域内では、3.3、6.6、11、22kVと複雑であり、地域間を融通するにも220・110KVと統一されていない。規格が標準化されなければ、送配電網の連結は不可能である。送配電網が整備された後、老朽化している発電所《北倉(プクチャン)火力発電所、平壌(ピョンヤン)火力発電所、清川江(チョンチョンガン)火力発電所》などの近代化が必要である。
また天然ガスについては、韓国ガス公社によると、工事は極東シベリアのガス田から採掘される天然ガスを、陸上配管を通じて、北朝鮮を経て韓国に供給する「南北露天然ガス事業団韓露PNG(パイプライン天然ガス)共同研究」のための実務準備に着手した段階である(図表4)。やはり実現までには相当の期間を要する。