揺らぐサムスン共和国:フォルダブルフォンも過当競争に直面したサムスン電子
国士舘大学経営学部客員教授 石田 賢
2022年のスマートフォン(以下スマホ)市場は、世界景気の低迷とロシア-ウクライナ戦争の長期化及び世界的なインフレーションなどの影響で、昨年よりマイナス成長となる見通しである。
市場調査会社インターナショナルデータコーポレーション(IDC)によれば、2022年全世界スマホ出荷台数は前年比7.8%減の12億5千万台と見込んでいる(図表1)。これは2022年初めの予測値13億7千万台より8.8%減の水準である。

図表1 スマートフォンの世界出荷台数
資料 : インターナショナル・データ・コーポレーション(2022年10月)
スマホ市場の委縮影響は韓国にも及んでいる。科学技術情報通信省が2022年11月に発表した「情報通信技術(ICT)輸出入動向」によれば、世界的な需要鈍化により、10月の携帯電話の完成品輸出実績は2億9千万ドルで、前年同月比で28.8%の減少となった。
2022年8月、サムスン電子はフラッグシップであるギャラクシーZフォールド4・フリップ4を投入したが、輸出減少を食い止められず、反対に中低級品スマホ市場で競合している中国の輸出が大幅に増加している。
この事実は、中低級品を含む多様化を推進しているサムスン電子にとって、いかに深刻な事態かを物語っている。一方、高級品で圧倒するアップルは、2022年10月に発売した4800万画素カメラなど新技術を搭載したアップルiPhone14シリーズが爆発的な人気を集めている。前作のiPhone13の1200万画素カメラと比較して、特に光が不足している低照度環境でのカメラ性能は、飛躍的に性能が向上した。
こうしたサンドイッチ状態に対してサムスン電子は、プレミアムから普及型まで多様な製品を投入することで顧客層を拡大し、2021年のスマホ販売台数までの水準を何とか維持しようと躍起になっている。
しかしギャラクシーS21シリーズが販売開始から7か月間に累積1,871万台を売り上げた2021年と比較して、S22シリーズの販売台数は同じ期間で累積1,701万台とマイナス9.1%と勢いを失っている。
この結果、サムスン電子の今年のスマホ出荷台数は、2021年より2,000万台以上少ない2億5,000万台前後にとどまる見込みである。このためベトナムに集中していたスマホ生産を再編して全体の40%台まで引き下げ、リスク分散を図る動きを強めている。
縮小気味のスマホ市場において、サムスン電子が切り札として期待しているのは、フォルダブル(折り畳み式)フォンである。市場調査会社カウンターポイントリサーチによると、2023年の世界フォルダブルフォン市場は、2022年の1,670万台より62.9%増の2,720万台と拡大していくと見通している(図表2)。

図表2 フォルダブルフォンの世界市場規模の見通し
資料 : カウンターポイントリサーチ(2022年7月)
スマホ市場全体に占めるフォルダブルフォン市場の割合はまだ1%以下であるが、サムスン電子は2022年のフォルダブルフォンの出荷台数の見通しを約1,000万台と見込み、先行企業としての強みを発揮している。
だがフォルダブルフォンも既存のスマホ同様、激しい競合状態に巻き込まれている。アップルは当面フォルダブルフォンに手を出さない見込みであるが、ここでも中国企業は低価格フォルダブルフォンを武器に追い上げが目立つ。特に最近1年間に、ファーウェイ(本社:広東省深圳市)、シャオミ(同:北京市)、OPPO(同:広東省東莞市)、Vivo(同:広東省東莞市)、HONOR(2020年11月にファーウェイが売却したサブブランド)など主要5社が、フォルダブルフォンの発売に踏み切っている。
ファーウェイは2019年2月、サムスン電子が発売したフォルダブルフォンに対抗して、フォルダブルフォン「メイトX」を出したが、品質と性能で劣っていたため惨敗した苦い経験を持つ。ファーウェイは名誉挽回を期して、2022年11月に新規フラッグシップフォルダブルフォン「ポケットS」を中国国内での販売予約を開始した。ただし、この機種をグローバル市場で販売する段階までには至っていない。
シャオミは2022年8月、フォルダブルフォン「ミックスフォールド2」を発表。OPPOは2022年末には次世代フォルダブルフォン「ファインドN2フリップ」を公開する見込みであり、Vivoは年内に「VIVO X フォールドプラス」を発売する計画で、HONORは「マジックVs」を2022年11月に発売した。
サムスン電子が先行していたフォルダブルフォン市場において、中国企業は1台当り2万円以上安い中低級製品で猛追している。サムスン電子はこの市場の半分以上のシェアを確保しているが、中国製品は価格だけでなく性能でも決して侮れない水準に達している。
フォルダブルフォン市場も現在過熱しているスマホ市場の二の舞になることが目前に迫っている。サムスン電子は、フォルダブルフォンの厚さと重さ、耐久性などの問題を解決するとともに、中国製品との差別化・多様化に応えることが緊急の課題となっている。